恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
久しぶり その一言に 戻ってく あの日の二人 桜の下へ


【短歌をテーマにした物語】
「久しぶり」

その一言を聞いた瞬間、私は不思議な感覚に包まれた。

目の前にいる男の子は、もう小学生の頃の彼ではない。

背が高くなって、声も低くなっている。

けれど、その笑顔だけは覚えていた。

「……陽太?」

「やっぱり、梨花だ」

桜の花びらが、私たちの間をひらひらと舞っていた。

私と陽太は、家が近所だった。

学校へ行くときも、帰るときも一緒。

放課後は公園で遊び、夏には一緒に虫を探し、冬には雪が降ると誰より先に外へ飛び出した。

私たちは、ずっと一緒にいるのだと思っていた。

小学六年生の春。

陽太が転校することになった。

「お父さんの仕事で、遠くに引っ越すんだ」

そう聞かされたとき、私は泣かなかった。

泣いたら、陽太まで悲しくなる気がしたから。

「また会えるよね?」

「もちろん」

陽太は笑った。

そして、学校の桜の木の下で約束した。

「いつか、またここで会おう」

「絶対だよ」

「絶対」

二人で小指を絡めた。

それが、私たちの最後の約束だった。

それから六年。

私は高校一年生になった。

新しい制服。

新しい教室。

新しい友達。

毎日が忙しく過ぎていく。

陽太のことを思い出すことも、少なくなっていた。

もう、私のことなんて忘れているかもしれない。

そう思っていた。

そんなある日。

担任の先生が言った。

「今日から転校生を紹介する」

教室の扉が開く。

「陽太です。よろしくお願いします」

その名前を聞いた瞬間。

心臓が大きく跳ねた。

顔を上げる。

そこにいたのは、六年前に別れた男の子だった。

休み時間。

陽太が私の机までやってきた。

「久しぶり」

たった一言。

それだけで、六年前の景色が蘇った。

公園。

ランドセル。

帰り道。

そして、桜の木。

「……本当に、陽太?」

「うん」

「大きくなったね」

「梨花も」

二人とも、なぜか笑った。

「覚えてたんだ」

私が言う。

「忘れるわけないだろ」

陽太は少し照れたように言った。

「約束したじゃん」

胸が温かくなる。

「いつか、桜の下で会うって」

「そう」

陽太は窓の外を見た。

「今年も桜、咲くかな」

放課後、私たちは学校の裏にある古い桜の木へ向かった。

小学生の頃、約束した場所。

あの頃より、木はずっと小さく見えた。

きっと私たちが大きくなったからだ。

「ここだったよね」

「うん」

二人で並んで立つ。

風が吹く。

桜の花びらが舞う。

「六年前、ここで別れたんだよね」

「覚えてる」

「俺、引っ越してから何度も戻ってこようと思った」

「どうして?」

陽太は少し考えてから答えた。

「約束したから」

私は笑った。

「私は、忘れちゃってた」

「嘘」

「……うん、嘘」

そう言いながら、私たちは笑った。

しばらく沈黙が続いた。

でも、不思議と気まずくなかった。

昔と同じだった。

何も話さなくても、一緒にいるだけで楽しい。

私は桜を見上げた。

「ねえ、陽太」

「ん?」

「小学生の頃、楽しかったね」

「うん」

「また、あの頃みたいに遊べるかな」

陽太が笑う。

「もう高校生だぞ」

「分かってるよ」

「でも……」

陽太は少し考えてから言った。

「また一緒に帰るくらいなら、できるんじゃない?」

私は笑った。

「それなら、できそう」

帰り道、私たちは並んで歩いた。

六年前と同じ道。

でも、ランドセルはない。

代わりに二人とも高校の鞄を持っている。

「ねえ」

陽太が言った。

「今度は、離れないから」

私は少し驚いた。

そして笑う。

「うん」

あの日、言えなかった言葉がある。

あの日、気づかなかった気持ちがある。

けれど、それは今すぐ言葉にしなくてもいい。

これから少しずつ見つけていけばいい。

翌朝、校門の前で陽太が待っていた。

「おはよう」

「おはよう」

「一緒に行こう」

「うん」

桜の花びらが風に舞う。

小学生だった私たちは、あの日ここで別れた。

そして高校生になった今。

同じ場所で、もう一度出会った。

きっと、あの日の約束は終わっていなかった。

ただ、続きを始める日を待っていたのだ。