僕の幼馴染みが、オメガバースに激はまりしてしまったんだが

 海里の変態的な執着心を、上手く誘導すれば素敵な恋ができるんじゃないかな? って、思うのよ。

 だってさ、海里、ちょっと思い込みが激しいタイプだけど悪いヤツじゃなくて。金持ちだし、頭良いし、背も高いし、スポーツもできるし、顔も良いしで、50%くらいは完璧なんだよ。

 半分の性格が難ありなだけで……。

 僕は、じとっと、幼馴染みを見つめた。

 「あのさぁ、その運命のツガイだったら、最終的にどうなるの?」
 「そりゃ、ツガイになるに決まってるだろう!」

 ツガイになるってなんだよ。まったくコイツは言葉が足りないんだよなぁ。本当に本読んでるのかな。語彙が少ないように思うんだけど。

 「ツガイってなに、結婚するの?」

 僕が、投げやりに聞くと、海里は珍しく赤面した。
 な、なんだよ、なに顔赤らめてんだよ……え、なに? ツガイって、もしかしてちょっとエッチな感じのやつなの?

 「噛むんだ」
 「は?」
 「そう、歯で、忍のここら辺を、がぶっと」
 「いや、そのはじゃなくて、や、まてよ、なに、噛むって、そんなん、絶対痛いやつじゃん! 暴力反対!」

 僕は恐ろしくなって、ベッドに駆け上がり枕を抱えた。こっち来たら枕で叩いてやる!

 「だけどっ! 契りを結ぶには必要な行為なんだ。でも安心してくれ、忍はまだ発情期きてないから……その行為はまだずっと先の話だ」
 「やだ、絶対やだ」
 「わかった、噛まない。そういうのも美味しい設定ではあるんだ、噛みたいのに噛まないで我慢するっていうのはアルファである俺には拷問に近い苦しみではあるが。約束する、噛まない」
 「本当に?」
 「指切りげんまんしていい」

 僕は恐る恐る、小指を差し出した。海里は僕の小指に自分の小指を絡めると、そのテノール歌手みたいないい声で、指切りげんまんの歌を歌い、指きった。

 「嘘ついたら、針飲ますからな」
 「わかった」
 「てかさ、なんなの、吸血鬼かなんかなの?」
 「いや、違うどっちかと言うと狼らしい」
 「はぁ……」

 まじでワケワカメ。とりあえず、この話しは終わったみたい、僕はさっきまで読んでいた漫画を手にとると、またゴロンとベッドに寝転んだ。

 「忍」
 「ん?」
 「アルファの前で、あんまり無防備な格好しないでくれないか」
 「アルファ? あぁ、お前のことか。なんで、いつも僕はここで漫画読んでるじゃん、なんでダメなんだよ」

 海里が、少しづつ、じりじりとこちらに寄ってくる気配。なぜだろう、身の危険を感じるのは。

 「ちなみに、聞くけど、アルファはオメガに無理やりエッチなことしたりしないだろうな?」
 「強制発情がおきなければ」
 「は?」
 「いや、だから、まぁ、大丈夫……これを飲んでれば」

 海里がポケットから取り出した、タブレットのお菓子。なんでそれ飲んでたら大丈夫なんだろう。

 「これ、こつちの薬が忍用だから、毎日飲んでから学校にきてね」
 「薬って……まぁ、うん、あ、1個食べていい?」
 「良いよ」
 「さんきゅ、あ、ピーチか、うま」

 食べてたら、海里が安心したように、ため息を吐いた。

 「良かった、匂いがまぎれて」
 「は? あ、昨日餃子食ったから臭かった?」
 「いや、忍がいい匂い過ぎて……」
 「そぉ? シャンプーかなぁ」

 手の匂いをくんくんと嗅いでみたが、とくにそんないい匂いはしなかった。海里、鼻良いのな。僕はちょっと鼻炎気味だから匂いあんまわかんないかも。

そんなこんなで、僕の幼馴染みは、ラノベBL小説のオメガバース設定に激はまりしたわけです。ちなみに、僕は少年漫画しか読まないのでオメガバースなるものがどんな話なのかまったくわかりません。

──転生だの、オメガバだのそういう設定抜きで、海里が僕に告白をしてくれれば良いのにな……。

漫画から、ちらりと目を離して、床に座ってる海里の頭をみる。熱心にラノベ読んでる形の良い頭は、さらさらの髪質で……なんと言うか、女子曰く、王子様みたいな外見だそうな。確かにと思う。

変な設定をしゃべらなければ、どこぞの貴族のご令息と言われても、はたまた、どこかの家元の跡取りと言われても信じてしまいそうな端整な顔なのだ。
お祖母さんが確かフランスだか、イギリスだかの貴族の末裔らしいけどそれは、本当だろうか。

ちょいちょいあいつの人生に混ざり込むBL設定を、僕でさえ全部は把握できていない。

僕はまた目の前の漫画に視線を移して、ため息を吐く。いつか、このチャラけた関係に終止符が打たれ、こいつと真剣なお付き合いなんてものが始まったりするのかと思うと……どうにも、恥ずかしくて。しばらくはまだこのままで良いか、と思うのだ。