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甘味処『はなや』の奥は、ふゆが寝起きをする住居へ続いていた。
鼓御前の前に、湯気の立つ湯呑みと、桜色のおはぎがひとつ。
千菊、葵葉とともに客間へ通された鼓御前は、緊張していた。
この場にいる全員の注目を受け、ふゆが口をひらく。
「事件のお話でしたら、私も聞いています。身内のことですからね」
「ふゆおばあちゃま、それはどういうことでしょう……?」
「行方不明になっていたのは、島の外に住む私の親戚なんです。私は嫁にいきませんでしたので、兄や妹の孫たちになります」
それからとつとつと、ふゆは語りはじめる。
ふゆも高齢だ。
そろそろ店を畳んで、じぶんたちの目の届くところで暮らすほうがよいのではないか。
数年前から親戚たちに代わる代わる説得されていて、先日も、妹の孫娘が店へ直接きたらしい。
「親戚を心配して、ね。言い分としては真っ当なもんだと思うけど?」
「心配だなんて、そんなものじゃないわ」
葵葉の言葉に、ふゆはかぶりをふる。
「私……知っているんです。ほんとうはあの子たちが、私を厄介者あつかいしていること。さそいをうのみにして島の外に出ても、施設を紹介されるだけ。そんなことになるなら、私はこの島に骨をうずめます」
物悲しげな表情をまといながらも、ふゆの決心は確固たるものだった。
だからこそ、鼓御前は腑に落ちない。
(どうして親戚の方は、ふゆおばあちゃまに無理をおっしゃるのかしら?)
面倒を見るつもりもないのに、ふゆをこの島から連れだそうと躍起になっている。
意味がわからない。
──つんつん。
頭を悩ませているときだった。ふいに背中をつつかれて、鼓御前はふり返る。「まぁ……!」と、おどろいたようなふゆの声が聞こえた気がした。
鼓御前のうしろには、小豆色の着物を着た童がいた。
見た目は三歳くらいだろうか。
男児とも女児ともつかぬ、不思議な風貌をしている。
「あなたは……?」
鼓御前の問いかけに、童は答えない。そのかわり、鼓御前の腕を引いた。
『カタナノ、カミサマ?』
「はい。鼓御前といいます」
『カミサマ、タスケテ』
「え……?」
『オバアサン、シヨウサマ、タスケテ』
つたない言葉で、童はなにかを訴えている。
「姉さま、そいつはなんて言ってんの?」
「葵葉はわからないの?」
「私にも、なんと言っているのかはわかりませんね」
おどろくべきことに、葵葉と千菊は童の言葉が聞き取れないようだった。
「『助けて』と言っています。『おばあさん』は、たぶんふゆさんのことですよね? でも『しようさま』とは、どなたのことでしょう……?」
はっとしたように、ふゆが手のひらで口を覆う。同時に、なにかを悟ったようだった。
「その子は小豆洗いです。……私たちのことを、心配してくれたのね」
「『私たち』……?」
鼓御前が首をかしげるころ、ふゆはゆっくりと腰をあげる。
「こちらへどうぞ。『しようさま』のもとへ、ご案内します」



