御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 甘味処『はなや』の奥は、ふゆが寝起きをする住居へ続いていた。
 鼓御前の前に、湯気の立つ湯呑みと、桜色のおはぎがひとつ。
 千菊、葵葉とともに客間へ通された鼓御前は、緊張していた。
 この場にいる全員の注目を受け、ふゆが口をひらく。

「事件のお話でしたら、私も聞いています。身内のことですからね」
「ふゆおばあちゃま、それはどういうことでしょう……?」
「行方不明になっていたのは、島の外に住む私の親戚なんです。私は嫁にいきませんでしたので、兄や妹の孫たちになります」

 それからとつとつと、ふゆは語りはじめる。

 ふゆも高齢だ。
 そろそろ店を畳んで、じぶんたちの目の届くところで暮らすほうがよいのではないか。
 数年前から親戚たちに代わる代わる説得されていて、先日も、妹の孫娘が店へ直接きたらしい。

「親戚を心配して、ね。言い分としては真っ当なもんだと思うけど?」
「心配だなんて、そんなものじゃないわ」

 葵葉の言葉に、ふゆはかぶりをふる。

「私……知っているんです。ほんとうはあの子たちが、私を厄介者あつかいしていること。さそいをうのみにして島の外に出ても、施設を紹介されるだけ。そんなことになるなら、私はこの島に骨をうずめます」

 物悲しげな表情をまといながらも、ふゆの決心は確固たるものだった。
 だからこそ、鼓御前は腑に落ちない。

(どうして親戚の方は、ふゆおばあちゃまに無理をおっしゃるのかしら?)

 面倒を見るつもりもないのに、ふゆをこの島から連れだそうと躍起になっている。
 意味がわからない。

 ──つんつん。

 頭を悩ませているときだった。ふいに背中をつつかれて、鼓御前はふり返る。「まぁ……!」と、おどろいたようなふゆの声が聞こえた気がした。
 鼓御前のうしろには、小豆色の着物を着た(わらべ)がいた。
 見た目は三歳くらいだろうか。
 男児とも女児ともつかぬ、不思議な風貌をしている。

「あなたは……?」

 鼓御前の問いかけに、童は答えない。そのかわり、鼓御前の腕を引いた。

『カタナノ、カミサマ?』
「はい。鼓御前といいます」
『カミサマ、タスケテ』
「え……?」
『オバアサン、シヨウサマ、タスケテ』

 つたない言葉で、童はなにかを訴えている。

「姉さま、そいつはなんて言ってんの?」
「葵葉はわからないの?」
「私にも、なんと言っているのかはわかりませんね」

 おどろくべきことに、葵葉と千菊は童の言葉が聞き取れないようだった。

「『助けて』と言っています。『おばあさん』は、たぶんふゆさんのことですよね? でも『しようさま』とは、どなたのことでしょう……?」

 はっとしたように、ふゆが手のひらで口を覆う。同時に、なにかを悟ったようだった。

「その子は小豆洗いです。……私たちのことを、心配してくれたのね」
「『私たち』……?」

 鼓御前が首をかしげるころ、ふゆはゆっくりと腰をあげる。

「こちらへどうぞ。『しようさま』のもとへ、ご案内します」