御刀さまと花婿たち


  *  *  *


「──神隠し、ですね」

 しとしとと、雨がふり続いている。
 海沿いの歩道には、傘がひとつ、ふたつ。

 雨雲に覆われた週明け。
 放課後になり、鼓御前は千菊に呼びとめられた。
 葵葉もいっしょになって、学校からの帰り道を、いつもとは反対方向へ歩いている。

「何人もの方が、行方不明になる事件……ですか?」
「えぇ、ここ数日で頻発していまして。被害者は島外の方に限られます。夜間に消息不明になり、翌朝発見されるので、一種の神隠しではないかとささやかれはじめています」
「まぁ『暮れの鐘』の決まりを守らないのは、今どき観光客くらいだろ。俺だって兎鞠島(こっち)に来るときは、船に乗るときに頭が痛くなるような誓約書を書かされたぞ」

 午後八時以降の外出禁止令は、観光客においても適用される。
 そのため民宿もこの時間を門限とさだめる徹底ぶりだ。

「葵葉も決まりをやぶっていましたけどね」
「あれは……俺もガキだったんだって……」

 おなじ傘のなかにいて、葵葉は肩身が狭そうだ。
 反省はしているらしい。
 鼓御前はくすりと笑った。

「で、立花センセはそれが〝(ヤスミ)〟のしわざだって?」
「まだ断言はできません。ただ、行方不明になった方は無事見つかっているものの、様子が妙なのです。お酒を飲んだわけでもないのに、『昨晩のことはなにもおぼえていない』と」
「たしかに、みなさんがまったくおなじ状況で、まったくおなじことをおっしゃっているのなら、妙なお話ですね……」
「なるほどな。それで〝(ヤスミ)〟が関係しているかどうかの調査を、俺たちに手伝わせようってわけか」
「あぁ、そのことですが。葵葉、きみは今回見学です」
「は?」

 思わず足を止める葵葉。
 前を行く千菊が、ふり返ってこう告げる。

「お付きの覡候補として、私はまだ力を示していませんからね。今回は私とつづが解決するので、きみは見ていてください」
「なんだそれ。今日明日には解決させるみたいな言い方」
「これでも先生ですので。お手本くらいは見せるべきだと思ったまでですよ」

 早期解決は当たり前。
 千菊の言葉は、そう言わんばかりに自信に満ちたものだ。

(あるじさまと……またいっしょに)

 その手で、ふたたびふるってもらえるかもしれない。
 そう思うと、鼓御前はどくんと胸が高鳴った。

「では手始めに。気になることがあります。それをたしかめに行きましょうか」

 ほほを染める鼓御前に、千菊はふ……と笑みをもらす。
 そしてごく自然に、少女の手を引いて歩きだした。
 千菊に連れられ、住宅地へやってくる。
 見おぼえのある景色を進んでいくので、鼓御前もまさかと思っていたら。

「ここは……ふゆおばあちゃまのお店ですね」 

 甘味処『はなや』──その店先にたどり着く。

「顔見知りか?」
「このあいだひなさんとお買い物の帰りに、知り合ったんです。あの、あるじさま……ふゆおばあちゃまが、なにか……?」

(ヤスミ)〟の関与が否定できない事件の調査で、真っ先にここへ案内されたのだ。鼓御前は不安をおぼえ、千菊を見あげる。

「行方不明者が島外の方という話はしましたね。もうひとつ共通点がありまして。みなさんがここ『はなや』さんをおとずれたことのある、『熱心なお客さん』だったんです」
「え……?」

 それはなにを意味しているのか。
 鼓御前が真意を汲み取れずにいると、千菊が閉めきられた戸口を叩く。

「ごめんください」

 返事は、すぐにあった。

「今日は店じまいをしているんです。ごめんなさいねぇ…………あら」

 がたりと音がして、申し訳なさそうな老婆が戸口から顔を見せる。

「覡さま、御刀さま……」
「特級神使(しんし)、立花です。すこし、お話をうかがってもよろしいですか?」

 千菊、葵葉、そして鼓御前を目にして、ふゆはなにを思ったのか。

「……奥へどうぞ。お茶をお出しします」

 多くを問うまでもなく、ふゆは戸口を開け広げ、鼓御前たちを迎え入れた。