御刀さまと花婿たち

「──こほん。少々熱くなってしまいました」

 ひとしきり熱弁をふるったひなは、咳払いをひとつ。
 それから気恥ずかしそうに眉を下げた。

「島での生活は娯楽も少ないですから、もともと読書は好きでした。恋愛小説を好んで読むようになったのは……憧れが、あったのかもしれませんね」
「憧れ……ですか?」
「私は神宮寺(じんぐうじ)家の娘です。御刀さまをお守りし、後世へ継承してゆくことが、第一の使命。たいせつなお役目を、惚れた腫れたの色恋沙汰でおろそかにするようなことがあってはなりませんから」

 思えば、ひなの口から彼女自身のことを聞く機会は、これまでなかった。
 どんな思いを胸に秘めて、生きてきたのか。
 じっと耳をかたむける鼓御前は、ひながどこかさびしそうに見えた。

「ひなさんにとって、『恋』とはなんですか?」
「そうですね……私は実際に恋をしたことがなく、ひと言では言い表せないのですが」

 しばらく思案したのち、ひなは鼓御前をじっと見つめ返す。
 そして、そっと語った。

「命尽きるまで、ともにいたいと強くねがうような……特別な方を見つけること、ですね」
「ともにいたいと強くねがう、特別な方……」
「やっぱり、難しいですよね。恋ってそういうものなんです。人である私たちにとっても、複雑で難しい感情ですから」

 ひなは苦笑する。
 やはり、その表情はさびしげだ。

「私は恋も夢も諦めましたが、納得はしています。大丈夫です」
「夢も、ですか?」
「覡さまになりたいという夢です。しかし、女の身ではそれは叶いませんから……」
「ひなさん……」
「あぁっ、いまのお役目が不満という意味では断じてありません! おやさしい鼓御前さまのおそばにお仕えでき、この上なく喜ばしいかぎりでございます」

 鼓御前の世話をしているのも、納得してのこと。それでじゅうぶんなのだとひなは言う。
 しかし鼓御前は、ふと疑問に思う。

「そういえば。どうして覡さまは男性しかいらっしゃらないのですか? 女性ではいけない理由でも……?」

 鼓御前は御刀さまであるから特別に許可されているのであって、神梛(かんなぎ)高等専門学校の入学資格は男子のみだ。

「霊力を持つ女性であれば、〝(ヤスミ)〟と闘うことができるのでは」
「女性は覡さまになることはできません。高い霊力を持つ者であっても……いえ、持つ者であればなおのこと、です」
「それはなぜ、ですか?」
「あやかしに、さらわれてしまうからです」

 女子が覡になってはならない。
 そう硬く禁じられている理由は、単純なものであった。

「あやかしは霊力の高い娘をさらい、嫁にしてしまうのです」
「それは──」