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あれはそう、ふゆがいとなむ甘味処『はなや』をおとずれたとき。
ふゆ手作りの桜あんのおはぎは、見た目のかわいらしさから若い娘に人気があること。
そして『殿方といっしょに食べると恋が叶うこと』を、ひなが話していた。
(だから『恋』について、ひなさんなら知っているかと思ったのだけど……)
さっきは名案だと思ったのに、いまは自信がなくなってしまった。
とぼとぼと縁側を歩いているうちに、鼓御前はひなの部屋の前までたどり着いた。
「ひなさん、鼓御前でございます。お邪魔してもよろしいでしょうか……?」
鼓御前はどきどきしながら声をかける。
すぐに障子が開いて、ひながまねき入れた。
「お待ちしておりました、鼓御前さま。こちらへどうぞ」
「失礼します……」
ひなの部屋は、よく整理整頓された六畳間だ。
鼓御前はうながされるまま、座布団に腰を落ち着ける。
「本日は、恋についてお知りになりたいということで」
「は、はい!」
向かいで正座をしたひなが、あらたまった様子で口をひらく。
鼓御前はつられて居住まいをただした。
「鼓御前さまが、なぜそのようなことをお知りになりたいのか……わたくしめがぶしつけにおうかがいすることはできませんが、これだけは」
ひなはそういうと、すす……となにかをさしだしてきた。
鼓御前はぱちりとまばたきをする。
「これは…………本、ですか?」
どこからどう見ても、本だ。
学校で使う教科書より小ぶりだが、厚みがある。
「こちらは、私の愛読書でございます」
「あいどくしょ……?」
「はい。鼓御前さまにおすすめの恋愛小説を、厳選させていただきました」
「れんあい……しょうせつ??」
「一般的には、主役の男女がさまざまな出来事の末に結ばれる物語を題材にした、読み物でございます。とくにこちらは女性が主人公の女性向け恋愛小説でございまして、鼓御前さまも共感なさりやすいかと」
流暢に述べるひな。
あきらかにいつもより饒舌である。
鼓御前がそう気づいたころ、ひながぐわっと目をかっ開く。
「王道の学園青春ラブストーリー。姫と従者の切ない身分差の恋。甘酸っぱい恋物語もいいですけれど、私個人としては将来断罪される悪役令嬢に転生したヒロインがその知恵と行動力で断罪ルートを回避していたら、敵対関係にあったヒーローになぜか好かれてしまって、溺愛ハッピーエンドが避けられない異世界転生モノが好きですッ!」
腹の底からの、さけびだった。
このとき鼓御前の脳裏には、なぜか莇のすがたが思い浮かんでいた。
(に、似ているわ……)
刀剣について語る莇と、恋愛小説について語るひな。
ふたりはまぎれもなく姉弟なのだ。
それを思い知らされ、鼓御前はただただ、圧倒されるばかりだった。



