御刀さまと花婿たち


  *  *  *


「やっと帰ってきたか、(あね)さま~!」
「……葵葉(あおば)!?」

 兎鞠神社へ帰り着くと、住居の玄関前で葵葉が待ちかまえていた。
 ひなはまたかとため息をつく。
 しっかりと茶は出しておいて最低限のもてなしはしつつ、さっさと夕食の支度に取りかかる。
 居間にあがり込んだ葵葉は、鼓御前に抱きついて離れない。

「はぁ~、ひさしぶりの姉さまだ」
「学校で会っているでしょうに」
「昨日は会ってない!」

 鼓御前もいまや学生だ。
 葵葉はクラスメイト。
 登校すれば当然顔を合わせる。
 だが土日を挟むとそうはいかない。
 しかも最近になって『特別授業』が入った葵葉であるから、なおさらだ。

「なにが楽しくて、立花(たちばな)センセと土日返上で特訓しなきゃいけないんだよ。なんか(あざみ)のやつも便乗してるし!」
「昇級試験のための、特訓でしょう?」

 いまから二週間ほど前。
 葵葉は千菊(ちあき)に呼びだされ、こう告げられたらしい。

「ちょっと二級の昇級試験を受けなさい」

 葵葉は(かんなぎ)としては見習いだ。
 そこから三級ではなく二級、つまり飛び級しろという無言のお達し。
 清々しいほどの無茶ぶりである。

「きみも御刀さまのお付きの覡候補なのですから、がんばれますよね?」

 本来脇差である鼓御前の覡としてふさわしい、二級の資格を取得しろ──
 千菊の言い分としては、そういうことらしい。
 そしてさらに葵葉を悩ませたのは、莇の存在。
 ほかのクラスメイトたちが千菊の無茶ぶりに怯えるなか、「わたしもよろしいでしょうか!」と『特別授業』への参加を表明した。

 二級昇級への条件のひとつに、『〝(ヤスミ)〟の討伐実績を有する』という項目がある。
 これは一年生のなかで、葵葉と莇だけがクリアしている。
『鬼神』による『特別授業』──莇に関しては、純粋な向上心による参加表明だ。
 しかしクラスメイトたちは「委員長って……ドMなんだな」と震えあがった、らしい。

「ていうか、寝ても覚めても莇が俺の視界にいるんだけど。もうあの顔見飽きたわ!」

「おれもだよ!」と反論する莇のすがたが目に浮かび、鼓御前は笑ってしまった。

「『喧嘩するほど仲がいい』……ですね。ひなさんが言っていました。葵葉におともだちができて、わたしはうれしいです」
「……むぅ」

 葵葉は不服そうではあるが、否定はしない。
 それほど、莇には気を許しているということだろう。