御刀さまと花婿たち

「ふゆおばあちゃま、よろしければ、またひなさんとこちらにうかがっても?」

 こんなとき、どんな言葉をかけるべきなのか。
 明確な正解という自信はないけれど、鼓御前はそう言葉にすることをえらんだ。

「えぇもちろん。いつでも遊びにいらしてくださいな」

 返ってきたのは、屈託のないふゆの笑顔。
 ひながすこし涙ぐんでいたのは、見間違いではないだろう。


 
「鼓御前さま……ありがとうございます」

 ふゆとのおしゃべりを心ゆくまで楽しんだ後。
『はなや』の店先で、ひなが深々と頭を下げてきた。

「とんでもないです。お店を畳んでも、おなじ島で暮らしているんですもの。また会えますからね」
「えぇ……そうですね」

 うなずくひなは、雨上がりのようにすっきりとした表情をしていた。

(わたしもすこしは、だれかの心に寄り添えるようになっているかしら)

 鼓御前は澄んだ青空を見上げながら、そうであればいいな、とねがう。

(…………あら?)

 ふいに、鼓御前は『気配』を感じた。
 ひとではない存在(もの)の『気配』だ。

 白色のような、青色のような、紫色のような。
 どの色にもとれる淡色(あわいろ)の着物に、身をつつんだ青年がいた。

(ふゆおばあちゃまのおともだちの、小豆洗いさん? それにしては……)

『気配』が、あやかしのものとは異なるような。
 青年は足音もなく『はなや』の軒下の影を通っていく。
 やがて住居部分の庭先で、ふっ……とすがたを消した。

(悪意は感じられなかったわ。どなたかはわからないけれど……大丈夫ね)

 鼓御前はじっと目をこらしたのち、そう判断する。けれど。
 謎の青年の物憂げなうしろすがたが、なぜか鼓御前の脳裏に焼きついて離れなかった。