〝慰〟を無事滅し、ひと段落したころ。
「おい小僧、刀を水に濡らすとかふざけてるのか? それでよく覡をやってられるな」
「……面目ございません」
兎鞠神社にある住居の一室にて。
なぜか莇は、桐弥に凄まれていた。
〝慰〟が出現した裏山からは寮のほうが近かったのだが、いろいろと『事情』があり。
「うっ、うっ……葵葉、莇さん、無事でほんとうによかったです……心配したんですからぁっ!」
……と、このように鼓御前が泣きだしてしまったのだ。
緊張の糸が切れたのかもしれない。
この状態の鼓御前と引き離すのは不憫だろうということで、少年たちは兎鞠神社をおとずれることになった。
ちなみに着いて早々、ずぶ濡れの葵葉と莇は「お風呂に入ってきなさい」と千菊に浴室へ放り込まれた。
そしていざからだを温めて出てきてみれば、仏頂面の桐弥まで合流しているという。
「天に怪我がなかったことだけはほめてやる。僕が仕事をしないですむなら、それに越したことはないからな」
「はい……」
「だが、刀をぞんざいにあつかうのは許せん。未熟な小僧にありがたい言葉をくれてやる。『刀と女は丁重にあつかえ』──そんな常識、千年前には決まってたぞ。肝に銘じておけ」
「はい……申し訳ございません」
桐弥の言葉が、次から次へと容赦なくふりそそぐ。
莇は正座したまま、頭をあげられずにいた。
腕組みをして莇を睨みつけていた桐弥は、ひとつため息をつく。
そして鞘におさまったひと振りの短刀を、莇の前にさしだした。
「風呂に入ってるあいだに、手入れをしてやったぞ」
「ありがとうございます、御父さま!」
「だから手前に『御父さま』と呼ばれる筋合いはない」
「今日は莇さんのお手柄でしたねぇ……!」
ぎりっと桐弥が莇を睨みつける一方で、鼓御前はほろりと涙を流している。
感激しているのだ。
この父娘、温度差がすごい。
「いえ! わたくしなど、まだまだ未熟者で……!」
「〝慰〟を倒したのはおまえだろ。素直に喜んだら?」
座布団にあぐらをかいた葵葉が、むすっとしたように言う。
すねているようだが、そこに刺々しさや敵意はない。
「葵葉……」
「まぁまぁ! すこし見ないうちに、ふたりは仲良くなったんですね!」
「つ、鼓御前さま! これはですね、その!」
「うふふ、莇さんが葵葉に『しっかりしろー!』と言っていたところ、ばっちり見ました」
「うっ……!」
「わたしに対しても、かしこまらなくていいのですよ? もっとお気軽に接してくださるとうれしいですわ」
「鼓御前さまがおっしゃるならば……善処いたします」
「硬いって」
やれやれと肩をすくめる葵葉。これには莇も反論があった。
鼓御前を目にすると、胸の高鳴りがおさえきれなくなる。
気を張っていなければまたなにか口走りそうだし、顔がゆるんでしまうのだ。
ただ、それを馬鹿正直に話したところで「オタクだよな……」と哀れみの目を向けられる気がしてならなかったので、ぐっとこらえておいた。
「おい小僧、刀を水に濡らすとかふざけてるのか? それでよく覡をやってられるな」
「……面目ございません」
兎鞠神社にある住居の一室にて。
なぜか莇は、桐弥に凄まれていた。
〝慰〟が出現した裏山からは寮のほうが近かったのだが、いろいろと『事情』があり。
「うっ、うっ……葵葉、莇さん、無事でほんとうによかったです……心配したんですからぁっ!」
……と、このように鼓御前が泣きだしてしまったのだ。
緊張の糸が切れたのかもしれない。
この状態の鼓御前と引き離すのは不憫だろうということで、少年たちは兎鞠神社をおとずれることになった。
ちなみに着いて早々、ずぶ濡れの葵葉と莇は「お風呂に入ってきなさい」と千菊に浴室へ放り込まれた。
そしていざからだを温めて出てきてみれば、仏頂面の桐弥まで合流しているという。
「天に怪我がなかったことだけはほめてやる。僕が仕事をしないですむなら、それに越したことはないからな」
「はい……」
「だが、刀をぞんざいにあつかうのは許せん。未熟な小僧にありがたい言葉をくれてやる。『刀と女は丁重にあつかえ』──そんな常識、千年前には決まってたぞ。肝に銘じておけ」
「はい……申し訳ございません」
桐弥の言葉が、次から次へと容赦なくふりそそぐ。
莇は正座したまま、頭をあげられずにいた。
腕組みをして莇を睨みつけていた桐弥は、ひとつため息をつく。
そして鞘におさまったひと振りの短刀を、莇の前にさしだした。
「風呂に入ってるあいだに、手入れをしてやったぞ」
「ありがとうございます、御父さま!」
「だから手前に『御父さま』と呼ばれる筋合いはない」
「今日は莇さんのお手柄でしたねぇ……!」
ぎりっと桐弥が莇を睨みつける一方で、鼓御前はほろりと涙を流している。
感激しているのだ。
この父娘、温度差がすごい。
「いえ! わたくしなど、まだまだ未熟者で……!」
「〝慰〟を倒したのはおまえだろ。素直に喜んだら?」
座布団にあぐらをかいた葵葉が、むすっとしたように言う。
すねているようだが、そこに刺々しさや敵意はない。
「葵葉……」
「まぁまぁ! すこし見ないうちに、ふたりは仲良くなったんですね!」
「つ、鼓御前さま! これはですね、その!」
「うふふ、莇さんが葵葉に『しっかりしろー!』と言っていたところ、ばっちり見ました」
「うっ……!」
「わたしに対しても、かしこまらなくていいのですよ? もっとお気軽に接してくださるとうれしいですわ」
「鼓御前さまがおっしゃるならば……善処いたします」
「硬いって」
やれやれと肩をすくめる葵葉。これには莇も反論があった。
鼓御前を目にすると、胸の高鳴りがおさえきれなくなる。
気を張っていなければまたなにか口走りそうだし、顔がゆるんでしまうのだ。
ただ、それを馬鹿正直に話したところで「オタクだよな……」と哀れみの目を向けられる気がしてならなかったので、ぐっとこらえておいた。



