御刀さまと花婿たち

 暗い。なにも見えない。
 息ができない。苦しい。
 冷たく深い水底へ、葵葉は沈んでゆく。

(あぁ、俺は……また死ぬのか。今度は、あっけなく)

 人として生まれ直した今世でも、親に捨てられた。
 兄弟も友もなく、独りで生きてきた。
 そんな葵葉の十五年そこらの人生は、取るに足りないちっぽけなものだろう。

(なんでだよ……)

 思い返せば、後悔ばかりだ。

(俺は地位や名誉がほしいわけじゃない。俺は、ただ……)

 こぽり。
 のこりわずかな酸素が、肺から水中へ泡となって逃げてゆく。

(ただ……そばにいたかった、だけなのに……)

 たいせつなひとと、いっしょにいたい。
 そんなささやかな願いさえ、叶わないのか。

(もう、無理だ……)

 決まりを破り、自分勝手に飛びだした。
 そんな葵葉のことを、鼓御前も千菊も、呆れて見放すだろう。
 もう手遅れなのだ。いまさら後悔しても遅い。

(意地をはらないで……ふみだせばよかった)

 ほんとうの気持ちを、素直につたえればよかった。
 諦め、閉じたまぶたから、ほろりとあたたかいものがこぼれる。
 それさえも冷たい水流に飲み込まれ、葵葉の涙はだれにも届かない──はずだった。

 水が流れを変える。
 水底へいざなうのではなく、水面へ引き寄せるような流れだ。

(……え……?)

 水中に投げだされた葵葉の腕を、がしりとつかむものがある。
 それがなんなのかも理解できないうちに、葵葉のからだが急浮上する。

 ざばぁっ!

 水面を抜けだす。かと思えば、葵葉のからだは岸辺にころがっていた。
 直後視界が回り、背中を強打される。その衝撃で葵葉は激しく咳き込み、水を吐いた。

「……けほっ! ごほっごほっ……!」

 空になった肺に、酸素がもどる。
 急激に酸素が供給されて、いっそ苦しいくらいだ。
 けれど、息ができる。あの冷たい水のなかじゃない。

「大丈夫か!?」

 だれかの声がした。それはおそらく、葵葉を水中から引きあげただれかの声。
 ぜぇはぁと荒い呼吸をなんとかととのえ、葵葉は頭上をあおぐ。

「……なんで……」

 そこには、ずぶ濡れで葵葉を支える、莇のすがたがあった。