御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 鼓御前に代わり、青葉時雨が蘭雪の実戦刀となった。
 数々のいくさ場を駆け抜け、敵を(ほふ)った。
 それでも蘭雪は鼓御前を肌身離さずそばに置いていたし、いくさ後も青葉時雨の手入れを怠ることはなかった。

(おれと、姉さまと、あるじの三人でいるんだ。ずっと……!)

 青葉時雨はそう信じて疑わなかった。
 けれど、時の流れとは残酷なもので。
 たったの数十年そこらで、蘭雪は死んでしまった。

『うそつき……いっしょにいようって言ったくせに……あるじのうそつき!』
『青葉……』

 蘭雪の墓の前で、泣きわめく青葉時雨。
 そんな弟の背に、鼓御前はそっとふれる。

『あるじさまは天寿をまっとうされたのです。それならばわたしたちも、公が生前望まれたように』
『……うん』

 わかっていた。人の一生が、儚いものであることは。
 だから鼓御前も、青葉時雨も、ともに墓に入ることにした。蘭雪がそれを望んだからだ。

 蘭雪の遺言を受け、彼の家臣がふた振りの刀を遺骨とともに埋める。

(あぁ……これでおれたちは、だれにも、邪魔をされずに……)

 大丈夫だ。たいせつなひとがそばにいるから、さみしくはない。
 土に埋もれた暗い暗い世界で、青葉時雨はそっと意識を手放す。
 あとには、深淵のような静けさにつつまれるだけ。

 ──けれど。
 だれかのそばにいたいというささやかな願いさえ、突然打ち壊される。

『……あるじ……あるじ!』

 滝のような土砂降りの夜のことだ。
 蘭雪の墓が、何者かによって掘り起こされたのである。

『姉さま……どこにいるの、返事してよ、姉さま!』

 ざあざあと、冷たい雨がふりそそぐ。

『ねぇ、おれを独りにしないでよ……あるじ……姉さまぁっ!』

 冷たく凍える雨の夜、青葉時雨は独り慟哭(どうこく)した。
 ぱきんと、みずからの命が折れる音を、最期に聞きながら。