御刀さまと花婿たち

「〝ヤスミ〟……」
「この島には日本中の(けが)れが、本土から潮風に乗ってくるんだそうだ。俺も港で島民が話しているのを、きいたことがある」

 人が心を病むことを、『(やす)む』という。

(わたしも神社に奉納されていた神刀なのだから、それはわかるわ)

 では、葵葉の言葉をそのまま受け取るなら。

「〝(ヤスミ)〟が()()()、あつまる島──ここ兎鞠島(とまりじま)は、古くからそういう場所なのですよ」
「〝(ヤスミ)〟は、あやかしや怨霊(おんりょう)のたぐいです。生半可な霊力の持ち主では、祓うことはできません……」

 嗚呼、そうか。そうなのか。

 男たちの悲痛な表情を目にした瞬間、おのれのなすべきことを、鼓御前は理解した。

「わたしが、斬ります」

 言うやいなや、鼓御前は浴衣の裾をひるがえす。

「御刀さま!」

 制止の声をふりきり縁側を駆け、庭へ。
 そして足底に意識を集中させ、跳ぶ。
 少女のからだは、みる間に屋根より高く舞い上がった。

(ついさっきまで走るのもままならなかったのに、不思議だわ)

 全身が異様に軽い。
 力がみなぎっているかのようだ。

「こら、俺を置いていくなよ」

 はたと、鼓御前は我に返る。
 屋根から屋根へ跳躍する鼓御前に、涼しい顔をした葵葉が肩を並べるところだった。
 付喪神ならまだしも、いまは人間であるはずの葵葉が、だ。

「霊力を使えば、身体能力なんていくらでも強化できる」
「葵葉もきてくれるの?」
「ばかだな。俺が姉さまをひとりで行かせるわけがないだろ」
「危ないところへ向かうのですよ」
「上等。ひさしぶりのいくさだ、血が(たぎ)るなぁ、姉さま」

 にやりと黒い微笑を浮かべた少年は、たしかに人の子。
 なれどもその本質は、あまたの戦場で狂い咲いた刀の(さが)そのもの。
 そして、それは鼓御前も。

「そうですね。たよりにしていますよ、葵葉」

 花のごとく笑みをほころばせた少女は、一変。
 ふれれば切れる鋭利な紫水晶のまなざしで、空の彼方を見据えるのだった。


「とその前に。姉さま、ほら草履」
「あっ、ありがとうございます! くぅ……弟に履かせられるなんて、未熟な姉です」
「大げさだな、あはは」