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「反りの浅い直刃。長さは二尺ほど、打刀ですか。おや……地肌が無地ですね。これはめずらしい」
蘭雪は捨てられていた刀を持ち帰ると、慣れた手つきで手入れをほどこした。
手入れを終えると、顔全体を覆っていた竜の面をはずす。
ともすれば女性のように柔和な顔立ちの美丈夫が、横たえた刀へほほ笑んだ。
「私はちょっと湯浴みをしてきます。その子をよろしくお願いしますね、つづ」
『はい、承知いたしました』
濡れた甲冑を脱いだ蘭雪は、自身の愛刀を捨て刀のとなりに置くと、部屋を出ていった。
『はじめまして。わたしは鼓御前といいます』
行儀よく座った少女が、にこにことあいさつをしてくる。
だが捨て刀がうんともすんとも言わないのを見ると、くすりと笑みをこぼした。
『恥ずかしがらないで、出ていらっしゃい』
しばらく沈黙が流れ。
鼓御前の目の前に、幼い少年がすがたを現した。人の子でいえば、六、七歳ほどだろう。
『打たれて百年ほどかしら。かわいらしい付喪神さんですね』
『……あんたも、付喪神なの?』
『はい。といってもわたしは磨上げられたあとなので、むかしのことはよく思いだせませんが』
『すりあげられた……?』
『雷に撃たれて、刃が焼けてしまったんです。なので焦げたところを研いでいただいたら、すこしちいさくなってしまいました』
鼓御前によると、いまは脇差だが、以前は太刀だった。
蘭雪からそう伝え聞いたと。
太刀であったときの銘は磨上げられたときに削られてしまったため、鼓御前に以前の記憶はほとんどないらしい。
『あなたは?』
『……銘は、ない。無銘とでもよべばいい』
『どうして森のなかにいたの?』
『山賊にぬすまれて、すてられた。まえは神社にいたけど、刀匠はしらない』
なにせ、付喪神として自我をもって間もない。
おのれがいつ、だれに打たれたのかもわからない。
ただひとつわかることがあるとすれば。
生まれ故郷もわからないほど、何度も何度も捨てられてきたということだけだ。
『……おれは、おもしろくない刀なんだって』
無銘はぽつりとこぼす。
途切れ途切れの記憶のなか、人間のひとりがじぶんに対して言っていた言葉だ。
刀の価値を決めるもののひとつが、刃文だ。
刃文とは、刀身に浮びあがるもようのことである。
刃文は鍛錬の仕方によって決まり、種類もさまざま。
だが無地の着物より、花鳥風月といった四季彩ゆたかな華やかな反物のほうが、目を引くだろう。
刀もそれとおなじ。刃文が直線的で、地鉄も変化に乏しい無地。
そんな無銘のことを、だれも必要とはしなかった。
『あんた、あのにんげんと話ができるんだろ? それなら、おれのこと折るようにいってよ』
じぶんはなぜ生まれたのか。
必要とされないなら、存在する意味などないはずだ。
だからはやく、終わりにしてほしかった。
もう……疲れたのだ。
『──なんてことをいうんですかっ!』
それなのに。
無銘が望む『終わり』を、彼らは与えてはくれなかった。
うつむく無銘のほほを、鼓御前が両手でつつみ込む。



