* * *
──雨は嫌いだ。
冷たいから、独りの寒い夜を思いださせる。
「なんだよ! このなまくら刀、たいした金にもなりやしねぇ!」
あるとき、ひと振りの刀が森のなかに捨てられた。
山賊が神社の賽銭箱を荒らしたさいに、命乞いをする神主から欲深くも奪いとった刀であった。
だが、売ってもたいした金にならぬと知った山賊は、その刀をためらいもなく山中へ放りだしたのだ。
(……あぁ、またすてられるんだ)
おどろくべきことに、その刀には意識があった。付喪神がやどっていたのである。
だからといって、産魂まれたばかりの刀の付喪神は、どうすることもできなかった。
むきだしの刀身のまま、ざあざあとふりそそぐ雨にただ打たれるだけ。
そう思っていたのに。
ごろごろと、ふいに空のうなり声をきいた。
雷雲が近くまでやってきているんだろうか。
『まぁ!』
そのときだった。どこからともなく、少女の声が届いた。
『あちらですわ、あるじさま、蘭雪さま!』
だれかが駆け寄ってくる。やはり、少女だ。
だが不思議なことに、少女は足音がない。
なにより身にまとう『気』が、人間のそれではない。
「おや」
次いで、若い男の声がひびく。
濡れた草を、ふみしめる音がする。
「今日はつづが、なんだか落ち着かないとは思っていましたが」
ざあざあと、雨がふりしきるなか。
霧の向こうから、甲冑をまとった武士が現れた。
その武士は憤怒の表情をした竜の面をつけ、腰にひと振りの刀を提げている。
なんとも恐ろしいいでたちだ。しかし武士がつむぐ声音は、おだやかなものであった。
「こんなところで、かわいそうに」
武士は片ひざをつき、野ざらしにされた刀をひろう。
「おいで。御手入れをしましょう」
『さすがあるじさまです! そうしましょう、そうしましょう!』
──それが、蘭雪とその愛刀に出会った日の記憶である。



