御刀さまと花婿たち

 ……かたり。
 わずかな物音で、桐弥は目を覚ます。
 まぶたを持ちあげれば、ふさふさとしたなにかが、視界に覆いかぶさっていた。
 くりっとした茶色の瞳で桐弥をのぞき込んでいたのは、一匹の狐だ。

「……苦しい、風汰(ふうた)

 桐弥がすこし顔をしかめると、胸もとにのしかかっていた狐──風汰が、するりと飛びおりた。
 桐弥は布団から身を起こし、畳にちょこんと座った風汰の頭をなでてやる。

 風汰は桐弥が面倒を見ている狐だ。
 飼っているかというと、それは微妙だが。
 この狐はきまぐれで、じぶんの気が向いたときだけやってくるから。
 ただ、桐弥がなでてやるときもちよさそうに茶色の瞳を細め、ふさふさのしっぽをゆらす。
 なつかれているのは事実なのだろう。

 ヒュウウ……

 桐弥はつと、窓の外を見やった。
 今夜はやけに、風の音がきこえる。

「おまえが来るときは、いつも風が強いな」

 いつだってそうだ。風汰はこうして突然やってくる。
 桐弥に、なにかを知らせるように。

 ひとしきり風汰をなでた桐弥は、腰をあげる。
 次いで箪笥をあけ、白の着流しに今紫の袴をすばやくまとう。
 賢い狐は、桐弥の仕事道具が入った鞄の持ち手をくわえ、ずりずりと引きずってきた。

「行ってくる」

 最後に風汰をひとなでした桐弥は、鞄を片手に寮の自室を後にした。