御刀さまと花婿たち


  *  *  * 


 雲が月を覆いかくす夜のことだった。
 白衣の袖と浅葱の裾をはためかせながら、莇は暗い森のなかを駆けていた。

 木々が生い茂る森に、鈴蘭型のガス灯のあかりは届かない。
 しかし颯爽と駆け抜ける莇の視界は、赤い火の玉のようなものによって照らされていた。
 古くから鬼塚家が使役する式神、鬼火(おにび)である。

「どこにいるんだ……!」

 葵葉のすがたが見えないことにいち早く気づいた莇は、すぐさま千菊に連絡をとり、その許可を得て捜索に向かった。

『暮れの鐘』が鳴る午後八時以降、兎鞠島の住民は外出が許されない。
 陰の気が色濃くなる夜間は、〝(ヤスミ)〟と遭遇する可能性が高まるためだ。
 例外として三級以上の覡は外出を認められるが、神官装束をまとうこと、帯刀を義務づけられる。

(寮や校舎のまわりはさがした。裏山(ここ)にいなければ、海辺のほうか……)

 あまり遠くへ行っていなければよいのだが。
 なんにせよ、夜が深まるほどに危険性は増す。
 時間はかけられない。
 莇ははやる気持ちをおさえながらも、冷静に周囲へ視線をめぐらせる。

(……あれは!)

 山道を流れる清流に沿って森の奥へ奥へと突き進んでいた莇は、その上流で足を止める。
 (ひら)けた景色。
 滝壺が勢いよく水しぶきを立てるそばの岸辺に、人影を見つけた。

「……行け」

 莇はすぐさまふところから紙人形を取りだすと、ふっ……と息を吹きかける。
 紙人形は折り鶴へとすがたを変え、夜空の向こうへ飛んでいった。

 ざっ、ざっ。
 草履で草をふみしめながら、莇は岸辺に座り込んだ少年──葵葉へ歩み寄る。

「こんなところにいたんですか。門限はとうに過ぎていますよ。寮におもどりください」

 厳しく叱責したわけでも、深く追及したわけでもない。
 だがなにが気に食わなかったのか。ひどく憎らしげに顔をゆがめた葵葉は、莇からふいと顔を逸らした。

「はいはい。わざわざご苦労でしたね、優等生クン」
「……縁代(よりしろ)さん」
「おまえがいるのに、もどるわけないだろ」

 吐き捨てる葵葉。つまりは、莇に対して腹を立てているということだろう。

(こういった反応には、慣れている)

 葵葉の敵意を前にして、莇はふと、過去に思いをはせた。