「……申し訳、ございません……です、が……」
どうにか呼吸をととのえようとする莇だが、なかなかととのわない。
息が荒い。浅く速い呼吸をくり返している。過呼吸の一歩手前だ。それは、莇が興奮していることのあかしで。
「どうにも、おさえきれないのです……この胸にわきあがる、感動をッ!」
「はい?」
鼓御前はきょとんとした。
ぐわっと目をかっ開いた莇が、腹の底から絶叫じみた一言をひびかせたからである。
「みなさまごらんになりましたか!? 細やかな沸出来の小乱れ刃、これはいにしえの業そのもの。さらに漆黒の地鉄……新月の夜のようになめらかな黒い肌に、稲妻のごとき刃文がきらめくのです! なんとお美しいのでしょう! あぁ鼓御前さま、その麗しいおすがたを間近で拝見できるなんて……この莇、感涙にございますッ!」
「え、えーと……」
あの莇が、興奮しきった様子でまくし立てている。
鼓御前はすっかり圧倒されてしまった。
「要するに委員長は」
「筋金入りの、刀剣オタクだった……ってコト……?」
なんとも言えない状況を、クラスメイトたちが困惑しながらも、的確に言語化した。
* * *
「お見苦しいところをお見せしました。御手入れを中断してしまい……お恥ずかしいかぎりです……」
しばらくして、莇は落ち着きを取りもどした。
「いえいえ! わたしもびっくりしただけですので……!」
陳謝する莇を慌てて押しとどめるも、今度は鼓御前のほうがどこか落ち着きがない。
「あんなにほめていただけるなんて……ちょっと、恥ずかしいです……」
公衆の面前で「お美しい!」だのなんだの熱弁をふるわれたのだ。
たしかにうれしかった。それ以上に恥ずかしく、鼓御前は顔を真っ赤にして桐弥の背中にかくれてしまう。
「青二才が、一丁前に僕の娘を口説くとは」
「そのようなつもりは! しかし御父さま、鼓御前さまを敬いお慕いするわたくしの気持ちに、嘘偽りはございません!」
「手前に『御父さま』と呼ばれる筋合いはない」
「俺たちは、なにを見せられてんのかな?」
一連のなりゆきを見守っていたクラスメイトたちも、しまいには悟りをひらいた。
「けどまぁ……委員長って意外と、面白いんだな」
「俺たちとは、住む世界がちがう人間だと思ってたよ」
おそらく、ぽつりと本音がもれてしまったのだろう。
「あっ、やべ!」と口をつぐむクラスメイトをふり返り、じっと見つめた莇は──
「なにをおっしゃいます。わたしたちはともに悪しきあやかしを滅する志をもつ者」
凛とした声音で、「おなじ道を歩むことに、生まれや血すじは関係ありません」と断じた。
「莇さん……すてきなお考えです」
名家の生まれながら、苦しい葛藤をかかえて生きてきた莇。
その彼がつむいだまっすぐな言葉は、鼓御前の胸を打った。
「……くそっ!」
和やかな空気が莇たちをつつむかたわら、人知れず葵葉が黒髪をかき乱す。
そして耐えかねたように、きびすを返す。
「────」
葵葉が独り稽古場を飛びだしてゆくさまを、千菊は静かに見つめていた。
どうにか呼吸をととのえようとする莇だが、なかなかととのわない。
息が荒い。浅く速い呼吸をくり返している。過呼吸の一歩手前だ。それは、莇が興奮していることのあかしで。
「どうにも、おさえきれないのです……この胸にわきあがる、感動をッ!」
「はい?」
鼓御前はきょとんとした。
ぐわっと目をかっ開いた莇が、腹の底から絶叫じみた一言をひびかせたからである。
「みなさまごらんになりましたか!? 細やかな沸出来の小乱れ刃、これはいにしえの業そのもの。さらに漆黒の地鉄……新月の夜のようになめらかな黒い肌に、稲妻のごとき刃文がきらめくのです! なんとお美しいのでしょう! あぁ鼓御前さま、その麗しいおすがたを間近で拝見できるなんて……この莇、感涙にございますッ!」
「え、えーと……」
あの莇が、興奮しきった様子でまくし立てている。
鼓御前はすっかり圧倒されてしまった。
「要するに委員長は」
「筋金入りの、刀剣オタクだった……ってコト……?」
なんとも言えない状況を、クラスメイトたちが困惑しながらも、的確に言語化した。
* * *
「お見苦しいところをお見せしました。御手入れを中断してしまい……お恥ずかしいかぎりです……」
しばらくして、莇は落ち着きを取りもどした。
「いえいえ! わたしもびっくりしただけですので……!」
陳謝する莇を慌てて押しとどめるも、今度は鼓御前のほうがどこか落ち着きがない。
「あんなにほめていただけるなんて……ちょっと、恥ずかしいです……」
公衆の面前で「お美しい!」だのなんだの熱弁をふるわれたのだ。
たしかにうれしかった。それ以上に恥ずかしく、鼓御前は顔を真っ赤にして桐弥の背中にかくれてしまう。
「青二才が、一丁前に僕の娘を口説くとは」
「そのようなつもりは! しかし御父さま、鼓御前さまを敬いお慕いするわたくしの気持ちに、嘘偽りはございません!」
「手前に『御父さま』と呼ばれる筋合いはない」
「俺たちは、なにを見せられてんのかな?」
一連のなりゆきを見守っていたクラスメイトたちも、しまいには悟りをひらいた。
「けどまぁ……委員長って意外と、面白いんだな」
「俺たちとは、住む世界がちがう人間だと思ってたよ」
おそらく、ぽつりと本音がもれてしまったのだろう。
「あっ、やべ!」と口をつぐむクラスメイトをふり返り、じっと見つめた莇は──
「なにをおっしゃいます。わたしたちはともに悪しきあやかしを滅する志をもつ者」
凛とした声音で、「おなじ道を歩むことに、生まれや血すじは関係ありません」と断じた。
「莇さん……すてきなお考えです」
名家の生まれながら、苦しい葛藤をかかえて生きてきた莇。
その彼がつむいだまっすぐな言葉は、鼓御前の胸を打った。
「……くそっ!」
和やかな空気が莇たちをつつむかたわら、人知れず葵葉が黒髪をかき乱す。
そして耐えかねたように、きびすを返す。
「────」
葵葉が独り稽古場を飛びだしてゆくさまを、千菊は静かに見つめていた。



