御刀さまと花婿たち

「御手入れでまず使う道具は、目釘(めくぎ)抜きです。これで、御刀さまの刀身と柄を固定している目釘を抜きます」

 手入れの説明は千菊が。桐弥は、白鞘を手にとった莇の横で目を光らせている。
 まず目釘を抜いたら、鯉口(こいぐち)を切り、刀を鞘からわずかに抜きゆるめた状態にする。
 莇は刀身が鞘の内部にぶつからないよう注意深く、かつ一気に引き抜いた。

 目釘を抜いているので、柄を持ったほうの手首をこぶしで軽く叩けば、その反動で刀身がはずれる。
 柄から刀身をはずしたら、最後に(はばき)をはずす。
 柄と刀身が接する部分にはめられた金具だ。
 鎺をはずし終えると、刀装具の一切ない、まっさらな鼓御前の刀身があらわとなる。

(なかご)(持ち手の部分)から上の刀身は、素手でさわるんじゃないぞ。いいか、ぜったいにだ」

 厳しい口調で桐弥が釘をさす。莇はこくりとうなずいた。

「──!」

 その直後のこと。
 それまで順調に手入れをこなしていた莇が、急に動きを止めた。

 それは、突然の違和感だった。

(莇さん? どうしたのかしら……)

 問いかけたい鼓御前だが、刀のすがたではそれは叶わない。

 どうも莇は、鼓御前の刀身を凝視したまま硬直しているらしかった。
 いや、正確にはふるえている。
 茎をにぎる手も、和紙をくわえた口も、わなわなとふるえていたものが、しだいに動揺を激しいものにしてゆく。

「──そこまでにしろ」

 鼓御前が異変を感じるころ、すでに桐弥は行動に出ていた。
 莇の手から、鼓御前の刀身をさらったのだ。
 直後、「……ぷはっ!」と息を吐いて莇が緋毛氈にくずれ落ちる。
 息を止めていたのだろうか。呼吸が荒い。

「どうされましたか!? 莇さん!」

 見るからに様子がおかしい。
 夢中で人型に変化した鼓御前が駆け寄ろうとするも、桐弥に「待て」と引きとめられる。

「父さま、なぜお止めになるのです? 莇さんの様子が変です。まだ体調が万全ではないのでは……!」
「ちがう、そんなんじゃない。いいからおまえはおとなしくしてろ」

 莇の身に起こった異変の正体。それに、桐弥はいち早く気づいたような口ぶりだった。

「莇さん、大丈夫ですか?」

 千菊がひざを折り、うずくまる莇の肩に手を添える。