* * *
用意されていた浴衣を葵葉に着せてもらい、鼓御前は廊下へ出る。
そこで迎えたのは年若い少女ではなく、壮年の男たちだった。
「まぁ、そうなるよな。姉さま、下がってろ」
湯上がりとは思えない冷めた能面を張りつけた葵葉が、一歩前に出る。
剣呑な空気のなか、四人の男が身がまえた。
「一度ならず二度までも……許可なく御刀さまを連れだすことがどれほどの重罪か、知らぬのか!」
「だれの『許可』だ? おまえらか? 笑わせんなよ。姉さまはおまえらのものじゃない。管理される『物』じゃない」
「貴様っ!」
「おやめなさい!」
だれかがいたずらに傷つけられることは、鼓御前の本意ではない。
気づいたときには葵葉の前で、両腕をひろげていた。
「みなさま、この子は葵葉。かつての号を青葉時雨と申します」
「青葉時雨……戦国時代の武将、『鳴神将軍』と謳われる蘭雪公が愛用していたひと振りという、あの!?」
「お待ちください、蘭雪公は……!」
「えぇ、わが鼓御前も、あるじとあおぐお方でございます。ゆえにこの子とわたしは、姉弟なのです。刀としての彼は折れてしまいましたが、人として、わたしを迎えにきてくれたのです」
「御刀さまが、人に転生するなんて……」
「ほんとうのことです。ですから──」
どうか、信じてくださいと。
鼓御前の訴えは、無情にもかき消される。
ゴーン、ゴーン、ゴーン……とどこからともなく鳴りひびいた、重苦しい音によって。
(鐘の音かしら?)
首をひねる鼓御前。
一方で、男たちがざわめきだす。
「おい、まだ『暮れの鐘』には早いぞ。あの鐘は……!」
「たいへんですっ! ヤスミが、町に〝慰〟が出現しました!」
「なんだって!」
縁側を駆け、やってきたひなが叫ぶ。
たちまち、男たちの顔色が消え失せた。


