御刀さまと花婿たち

「莇ちゃんがすでに三級の階級持ちなのは、特例のひとつね」

 莇は神宮寺(じんぐうじ)家の系譜である鬼塚家の出身だ。
(ヤスミ)〟に対抗すべく、幼いころから英才教育がほどこされている。

「だから御三家出身の覡は、飛び級することがめずらしくないのよ。あぁ御三家といえば。九条ちゃん、こっちにいらっしゃい」
「…………」
「はい、あからさまに嫌そうな顔しないで、さっさと来る!」

 三年生のなかでそしらぬ顔をしていた桐弥を、虎尾が問答無用で呼びつける。
 そして渋々やってきた桐弥の腕に、がしりと自身の腕を絡みつけた。
 その瞬間、逃げ道を絶たれた桐弥の形相といったら。
 同級生たちすら、ぶるりと戦慄(せんりつ)した。

「はーいちゅうもーく。凄腕の手入れ師で有名な九条ちゃんの袴も、三年生のみんなとおなじ紫色ね。でもよーく見ると、お花のもようが浮かびあがってくるでしょ?」
「ほんとうですね……藤のお花が見えます!」
「古くから藤は魔除けの象徴とされてるわ。そんなわけで覡でも達人の領域になる一級以上の階級には、袴に藤の白紋をほどこすのが決まりなの」

 そういう虎尾も和装をアレンジした袴風のパンツスタイルだが、よくよく見れば、桐弥と同様に藤の白紋が浮かびあがってくる。

「一級ともなると、アタシみたいにこの学校の先生になれまーす」
「……僕が出てくる必要はなかっただろ」
「優秀な教え子を自慢したいセンセーゴコロよ。照・れ・な・い・の」
「これが照れているように見えるなら、いますぐ医者にかかったほうがいい」

 桐弥はしかめっ面で虎尾を振りはらうと、ため息まじりに白衣の袖のしわを伸ばす。

「ちなみに立花センセは、歴代でも数人しかいない特級の覡。このレベルになると〝(ヤスミ)〟より怖いわね。人間辞めてるみたいなもんだから」
「はは、照れますねぇ」

 もちろん虎尾はほめていないし、千菊もそれを理解している。

「特級の覡さま……」

 じっと千菊を見つめる鼓御前。
 先ほどの虎尾の説明どおり、純白の差袴には藤の白紋が刻まれていた。
『鳴神将軍』と恐れられていた蘭雪(らんせつ)だが、その戦闘能力は転生してもなお健在らしい。

「さて。ひととおり説明が終わったところで、実技授業に移りましょうか」

 頃合いを見て、千菊が虎尾から話を引き継ぐ。

「今日は三年生のみなさんに教えてもらって、刀のあつかいをまなぶという内容でしたね」

 ひとびとは、どんな気持ちで刀をにぎっているのか。
 鼓御前が興味津々に生徒たちを見つめていると、まさかの言葉が頭上からふり注ぐ。

「つづ、お手伝いをしてもらえますか? それから──莇さん、こちらへ」
「あっ、はい! わかりました!」
「おれが……?」

 反射的に返事をする鼓御前。
 莇は予想外の展開だったのか、思わず素になって目を白黒させていた。
 当然のごとく葵葉や桐弥から鋭い視線が飛んでくる。
 しかし千菊は一切動じることなく、にこやかに告げる。

「ふたりが『お手本』を見せてあげてください」