御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 本日も晴天なり。
 しかし、陽だまりの射し込む教室で黒板を背にした鼓御前は、そわそわと落ち着きがなかった。
 というのも、向かって左側に立っている莇のことが、気になって気になって仕方なかったため。

「莇と申します。新入生代表として、学級委員長の役職をたまわりました。せいいっぱいつとめさせていただきます。よろしくお願い申しあげます」

 よどみなく言葉をつむぎ、完璧な角度で礼をする莇。
 洗練された言動は、一目で育ちの良さをうかがわせる。

「御刀さまとおなじく、莇さんも今日から復帰します。みなさん仲良くしましょうね」

 教卓の前で、千菊がおだやかに生徒たちへ語りかけるが──

(あね)さまと肩をならべるとか何様だ。ふざけてんのか。離れろ離れろ離れろ……」 

 なにやら教室の奥のほうから、怨念のような言葉がきこえてくる。
 言わずもがな。
 最後尾にある窓際の席で腕組みをした葵葉(あおば)が、心底不機嫌そうに莇を睨みつけている。

(えーっと……仲良く、できるかしら?)

 相変わらず攻撃的な弟の様子に、鼓御前は早くも不安をおぼえるのだった。
 ──そのとき、鋭く細めた瞳で葵葉を睨み返した莇のことを、鼓御前は知らない。


(ヤスミ)〟との闘いで、莇は全治二週間の重傷を負ったはずだ。
「お怪我は大丈夫なのですか?」と恐る恐る問う鼓御前へ、莇はうなずいてみせた。

「ご心配にはおよびません。わたくしは鬼塚(おにづか)の家系でも、特別回復が早い体質なのです」

 そのため通常なら回復まで二週間かかる頭部外傷も、三日で完治したのだと。

「治るのが早くても、痛い思いはしてほしくありません。これからは、無理はなさらないでくださいね……?」

 心配のあまり泣きそうになっている鼓御前を目にして、莇ははたと呼吸を止める。
 それから、ぽ……とかすかにほほを朱に染めた。

「……そんなふうに心配してくれたひとが、ほかにいただろうか」
「莇さん? お顔が赤いです。もしや体調が……?」
「あっいえ、お気になさらず!」

 と、このような鼓御前と莇のやりとりが、朝のホームルーム後にくり広げられたのだが。

「あれは、決まりだな」
「あぁ。ぜったい好きだろ、委員長」

 なにせ、鼓御前に対する莇のいろんな感情が、だだ漏れなので。
 一連のやりとりをながめていたクラスメイトたちは、ほぼ全員察していた。
 気づいていないのは、おそらく鼓御前本人だけだろう。

「いくら名門鬼塚家出身の委員長でも、鼓御前さまのお付きの覡になるのは難しいよなぁ……」

 なぜなら、すでに圧倒的な存在感を放つ三名が、覡候補の座に君臨しているから。
 まぁ、そのうちの一名は、かなりの厄介者のようだが。