「お手紙も押し花の栞も、鼓御前さまが心を込めて贈ったものです。その想いは、あの子にもつたわっているはずです」
「そう、でしょうか……そうだと、いいのですが」
「つたわっています、きっと。……あの子のために、ありがとうございます、鼓御前さま」
ふいにひなが深々とお辞儀をするので、鼓御前もつられて、
「こちらこそ。いろんなことを教えていただき、ありがとうございます」
と自然に頭が下がる。
じんわりと胸にひろがったぬくもりが心地よくて、鼓御前はなんだかうれしくなった。
あらためてひなに礼を言い、鼓御前は玄関を出る。
「そんなに持てるのか」
一足さきに外に出ていた桐弥が、「貸してみろ」と手を伸ばしてくる。
鼓御前はリュックタイプの革製の通学鞄を背負っていて、そこに手提げ袋を持っているのだ。大荷物で大変だろうという過保護ゆえの言動である。
そんな桐弥に対して、鼓御前はかぶりをふる。
「大丈夫です。お弁当も水筒も、つづのものです。つづがちゃあんと持っています!」
ひながせっかくじぶんのために用意してくれたのだ。
だからじぶんが持っていたいのだと、鼓御前は思う。
(これが、『物をだいじにしたい』という気持ちなのかしら)
鼓御前が手のなかのものに愛着を感じているように、鼓御前自身もだいじにされてきた。
だからこそ、付喪神として産魂まれた。
──たしかに愛されていることを、実感できた。
「こどもの成長ははやいものねぇ、オトーサマ?」
「……おしゃべりしてるひまがあったら行くぞ」
からかうような虎尾のまなざしを受け、桐弥はふいとそっぽを向く。
べつに親離れがさびしいとかではない。断じて。
「あっ、お待ちください父さま!」
軽やかに駆け寄る足音をきき、桐弥は歩調をゆるめた。
いけない。娘は小柄なおんなのこなのだから、ゆっくり歩いてやらないと。
「行ってきます、ひなさん!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
桐弥と肩をならべた鼓御前は、ひなをふり返り、手をふる。
みずからの足で一歩をふみだした朝。
ひらひらと薄桃色の花びらが舞う桜並木の向こうに、澄んだ青空がどこまでも続いていた。
「そう、でしょうか……そうだと、いいのですが」
「つたわっています、きっと。……あの子のために、ありがとうございます、鼓御前さま」
ふいにひなが深々とお辞儀をするので、鼓御前もつられて、
「こちらこそ。いろんなことを教えていただき、ありがとうございます」
と自然に頭が下がる。
じんわりと胸にひろがったぬくもりが心地よくて、鼓御前はなんだかうれしくなった。
あらためてひなに礼を言い、鼓御前は玄関を出る。
「そんなに持てるのか」
一足さきに外に出ていた桐弥が、「貸してみろ」と手を伸ばしてくる。
鼓御前はリュックタイプの革製の通学鞄を背負っていて、そこに手提げ袋を持っているのだ。大荷物で大変だろうという過保護ゆえの言動である。
そんな桐弥に対して、鼓御前はかぶりをふる。
「大丈夫です。お弁当も水筒も、つづのものです。つづがちゃあんと持っています!」
ひながせっかくじぶんのために用意してくれたのだ。
だからじぶんが持っていたいのだと、鼓御前は思う。
(これが、『物をだいじにしたい』という気持ちなのかしら)
鼓御前が手のなかのものに愛着を感じているように、鼓御前自身もだいじにされてきた。
だからこそ、付喪神として産魂まれた。
──たしかに愛されていることを、実感できた。
「こどもの成長ははやいものねぇ、オトーサマ?」
「……おしゃべりしてるひまがあったら行くぞ」
からかうような虎尾のまなざしを受け、桐弥はふいとそっぽを向く。
べつに親離れがさびしいとかではない。断じて。
「あっ、お待ちください父さま!」
軽やかに駆け寄る足音をきき、桐弥は歩調をゆるめた。
いけない。娘は小柄なおんなのこなのだから、ゆっくり歩いてやらないと。
「行ってきます、ひなさん!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
桐弥と肩をならべた鼓御前は、ひなをふり返り、手をふる。
みずからの足で一歩をふみだした朝。
ひらひらと薄桃色の花びらが舞う桜並木の向こうに、澄んだ青空がどこまでも続いていた。



