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島の住民なら、だれもが知っていることなのだが。
兎鞠神社の敷地内は、癒やしの効果をもつ霊力に満ちた『霊域』だ。
「過剰な霊力にさらされた御刀さまは、すくなからず神気の乱れが生じる」
「でも父さま、わたしはへいきですよ?」
「気を失ってここに運び込まれたやつがよく言う。いいから寝てろ。勝手に出歩くな」
「ふ、ふぇえ~!」
病院での一件後。
鼓御前は『霊域』にてしばし療養をおこなう方針となった。
問答無用で鼓御前を布団にころがした桐弥は、毎日欠かさず神社をおとずれ、娘の容態を確認する徹底ぶり。さすがである。
今朝になり、ようやく桐弥の『お許し』が出た。
そんなわけで、鼓御前はようやく登校することが叶う。
入学式以来、三日ぶりのことである。
「たいへんお待たせしました!」
鼓御前が身支度を終え、玄関へ向かうころ。
台所のほうから、ぱたぱたとひなが駆け寄ってきた。
ひなは手にした手提げ袋を、鼓御前へさしだす。
ベージュに桃色の小花もようがなんとも可愛らしい、かぎ針編みの手提げ袋だ。
「お弁当と、あたたかいお茶の入った水筒をご用意しました」
「まぁ、ありがとうございます!」
「食事はひとりでできるのか」
「はい、ひなさんにお箸の使い方の特訓をしていただきましたもの!」
この三日間、鼓御前は外出を禁じられていた。
ではなにかできることはないかと考えたとき、人間が毎日おこなう食事、つまり箸の使い方を学ぼうと思いいたった。
「お箸で小豆をつまんで、お皿からお皿へうつして……お箸の使い方だけじゃなく、字の書き方も教えていただいたんですよ」
まだつたない面も残るものの、ひとりで食事だとか、ある程度の読み書きもできるようになった。
特訓の賜物だ。
「お手紙も書けるようになりましたし…………あっ!」
できるようになったことを指折り数えていた鼓御前は、はっと息をのむ。
「ど、どうしましょう……」
「あらつづちゃん、おろおろしてどうしたの?」
「莇さんにお手紙を書いたのですけれど……名前を書くのを忘れていました!」
手紙は何度か書き直し、いっとうきれいに書けたものをえらんだつもりだ。
しかしつたえたいことを書くことに必死で、差出人の記名を失念していた。
「いきなり知らないひとからお手紙がきて、莇さん、お困りですよね……!?」
「そのことでしたら、心配はいりませんわ」
あたふたと慌てる鼓御前をよそに、ひなが「ふふっ」と笑みをもらす。



