御刀さまと花婿たち

 脱衣所の鏡に、艷やかな黒髪の少女が映り込む。
 ぱっちりと大きな胡桃(くるみ)型の瞳は、紫水晶のよう。
 あらためて目にする、鼓御前(つづみごぜん)自身のすがただ。

「濡れるのがこわいなら、着たままでいいよ」

 葵葉(あおば)は器用に鼓御前の着物を脱がせる。
 そうして肌襦袢(はだじゅばん)のみを残すと、自身も帯をゆるめた。

 かくして湯気の立ちこめる浴室に、葵葉とふたりきり。

「熱くないか?」
「へいきです」

 葵葉が手にした桶で湯船から湯をさらい、そっと鼓御前のからだにかける。
 肌襦袢ごしにじんわりと熱がひろがる感覚を、鼓御前もしだいに受け入れるようになっていた。

 髪を濡らすときが、一番こわかった。
 けれど湯が顔にかからないよう葵葉が手のひらで覆ってくれたので、乗りきることができた。

「ふふっ」
「どうしたんだよ、いきなり」
「葵葉にふれられると、うれしくなってしまいます」

 それもこれも、長らくはなればなれだったからなのかもしれないが。

「もっと、ふれてくださいな」

 むかしのように、いっしょにいたい。
 陽だまりにつつまれたような心地の鼓御前の背後で、息を飲む気配がある。

「そうだな……じゃあこっち向いて」

 葵葉は鼓御前の脇へ手をさし入れ、持ち上げた華奢(きゃしゃ)なからだをひざの上に乗せる。
 うっとりと蕩けた顔を、鼓御前へ寄せながら。

「姉さま、じっとして……」
「……んっ」

 かすれ声でささやいたくちびるが、桃色に染まる鼓御前のそれにかさなる。

「ふぁ、んっ……」
「あねさま……」

 葵葉は気のすむまで姉のくちびるを吸うと、最後にちゅうっと音を立て、顔を離した。

「あの……?」
「口吸い。接吻。いまだとキスっていうな。人の愛情表現だよ。()()()()()()とするんだ」
「だいすきな、かぞく……家族は葵葉ひとりだけですから、葵葉とするものなんですね」
「そのとおりだ。俺以外のやつとしちゃだめだからな? 約束だぞ、姉さま」
「やくそく……はい、わたしはちゃんと約束を守ります。姉ですもの」

 ぼうっと熱に浮かされた鼓御前の言葉を受け、葵葉はわらう。

「かわいい、かわいいなぁ……俺の姉さま。俺だけの姉さま。大好きだ」

 うわ言のようにこぼされる声音は、姉に対するものではない熱と欲を孕んでいる。
 そのことを、まっさらな少女こそが、知らなかった。