御刀さまと花婿たち

「これでよい」
「いくら『鬼神』といえど、記憶がなければ只人(ただびと)よ」
「さて、船の手配を。明朝には島外に──む?」

 祝詞の奏上は無事終わった。
 だというのに、何故だ。
 ()()()()()
 男たちが寒気を感じたとき、畳にのびた影が不規則にゆらめいた。
 おもむろに顔をあげた千菊が、御簾に向かって笑む。

「これで、満足ですか?」
「なっ……まさか!」
「祓詞がきいていない、だと!?」

 予想外の出来事に、男たちは震撼。
 思わず立ちあがった拍子に、御簾が大きくゆれた。

「どういうことだ!」
「落ち着け、もう一度だ。記憶を消し去らねば、この者たちはふたたび御刀さまを持ちだすに違いない。それだけは……!」
「──ごちゃごちゃと五月蝿(うるさ)いな」

 ここで、沈黙をつらぬいていた桐弥が発語する。怒りをあらわに、低くうなるように。

「御刀さまを持ちだすだの、持ちださないだの。おまえらにとって、あいつは持って出歩ける『装飾品(モノ)』でしかないんだな。──馬鹿も休み休み言えよ、小僧ども」
「んなっ……!」

 容赦なく、辛辣な言葉をまくし立てる桐弥。
 紫水晶のまなざしにやどった闘志が衰えていないのは、依然として記憶を引き継いでいるあかしだ。これに、男たちはうろたえた。

「何故だ……何故……」
「さーて、なんでだろな?」
「貴様っ……」

 しまいにはくく、と葵葉が嘲笑したため、男たちの混乱も最高潮に達する。

「みなさまがとなえたのは、たしかに私たちの真名です。逆を言えば、その程度でしかありません」
「なにを言っている……!?」
「はて。神宮寺家のご息女が、みなさまへご報告なされたはずですよね。()()()()()()()()()()()を」
「──っ!?」

 そうだ。
 たしかに神宮寺家の娘、ひなから報告があった。
 だが『それ』は、あまりに信じがたいこと。
 現実に起こりうるはずがないと、男たちが笑い飛ばしたことで。

「あらためて、ごあいさついたします。私は前世の名を鼓御前の主、立花蘭雪と申します」
「九条派が()、九条紫榮。忘れずに記録に付け加えておけ。おまえたちのいう御刀さまは、僕が打った刀だと」
「号は青葉時雨。蘭雪公しか使えなかった俺のあつかいづらさは、折り紙つきだぜ?」

 ──あり得ない。
 けれど、疑いようがない。
 真名で縛ったはずの者たちが、何食わぬ顔で口上をのべているのだから。