御刀さまと花婿たち

(いいや、やめだ。あの人がなに考えてるのかわからないのは、むかしからだ)

 なにを思って、鼓御前を莇と会わせたのか。
 それを追及したところで、千菊が口を割るはずもない。

(ただひとつ、わかることがあるとすれば──ここはもう、あの人の舞台ってことだ)

 この状況下で、千菊はみじんも取り乱してはいない。
 むしろ竜頭面からのぞく口もとを、可笑しげにゆるませているのだ。
 それがなによりの証拠だろう。

(さて、あんたはなにをするつもりなのか。俺は高みの見物をさせてもらおうか)

 にやり。
 葵葉の口もとから、自然と笑みがこぼれた。

「この者らは、御刀さまへ真名を明かしてはならない掟を破った。即刻除籍し、島外へ追放すべきだ」
「異論はない」
「では、()(ほう)ら三名の神使資格を、剥奪処分とする」
「これ、話し合いの意味あるか?」

 厳しく追及した挙句、こちらの言い分もきかず一方的に処遇を言い渡す。
 これを名ばかりの査問会議と言わずして、なんとするのか。

「それではこれより、『(みそぎ)』を執りおこなう」

 そして、肝心の罰則が間髪をいれずに科せられるようだ。

()けまくも(かしこ)き、伊邪那岐大神(いざなぎのおほかみ)──」

 三名の男たちが、代わる代わる祝詞をあげはじめる。
 祓詞(はらえことば)だ。
 ちなみに葵葉らは人間であって、〝(ヤスミ)〟ではない。 

「立花センセ。一応きくけど、これどういう状況?」
「『禊』ですね。覡に対する祓詞は、記憶を消し去る際に用いられるものです。仮にも刀剣をあつかう知識と技術をもった者を、島外へ野放しにするわけにはいきませんから」
「それもそうか」

『禊』とは、要するに覡をただの人に変えるための儀式なのだろう。

諸諸(もろもろ)禍事(まがごと)罪穢(つみけがれ)()らむをば──」

 そうこうしているうちに、祝詞も終盤にさしかかる。
 しゃらん、しゃらん。
 御簾の向こうから、紙の束をふるような音がきこえる。
 おそらく大麻(おおぬさ)だろう。
 やがて葵葉たちの座る畳に、光りかがやく五芒星の陣が浮かびあがった。

「せっかちにもほどがあるだろ。なぁ、いよいよヤバイんじゃないか? どうすんだよ」
「なにも」
「は? 大人しくやられろってか?」

 思わず片ひざを立てた葵葉に対し、千菊は告げる。

「いいえ。そこで黙ってごらんなさい」

 ──手を出すな。
 千菊の意図を察した葵葉は、釈然としないながらも口をつぐむ。

(はら)(たま)真名(まな)をば──立花千菊、九条桐弥、縁代葵葉」
「……これは」

 葵葉が違和感をおぼえた、次の瞬間。

 ──カッ!

 まばゆい光が、視界を真白に埋めつくす。
 やがて五芒星は消え去り、宵闇を橙灯明が照らす大広間の景色がもどる。