御刀さまと花婿たち

『典薬寮』とは、〝(ヤスミ)〟に対抗するため、武装神職者によって組織された特殊機関のことである。
 その本部は、満月型の兎鞠島中心部、島全体を見渡すことのできる高台の上に置かれている。

 宵の口。
 二十四畳の大広間にて、査問会議が急遽執りおこなわれる運びとなった。
 審理対象として呼びたてられたのは、立花千菊、九条桐弥、そして縁代葵葉の三名だ。

「では、弁明があるならばきかせてもらおうか。立花特級神使、九条一級神使」

 大広間の上座側に、橙灯明が置かれている。
 ゆらめく橙のあかりが、三人の人影を映しだした。
 しかし御簾(みす)が下がっているため、彼らの素顔をうかがうことはできない。
 この場を取り仕切っているからには、それなりの地位にいる覡なのだろうが。

「こっちに非があること前提かよ。しかも、俺のことシカトだし」

 問答無用で呼びつけておいて、座布団も用意していないとはどういうことか。
 葵葉は盛大にため息をついた。

(『典薬寮(こいつら)』にとって、霊力者としての教育を受けていない俺は、『取るに足りない存在』なんだろ)

 ふてくされた葵葉は、あぐらをかいたひざに頬杖をつくと、ふと脇目をふる。
 不満をあらわにした葵葉とは対照的に、千菊と桐弥は静かなものだった。
 背すじをのばし、毅然とした態度で批判を正面から受けとめている。
 張りつめた静寂のなか、千菊が沈黙をやぶった。

「ご報告があがっているとおりです。御刀さまをめぐった一連の騒動につきまして、事実に相違はございません」
「よくも、悪びれもせず……お付きの覡でもない者が許可なく御刀さまを持ちだすことは、重大な違反行為であるぞ!」

 御簾の向こうで、影のひとつが声を荒らげる。

(うるさいじじいだな……)

 葵葉は顔をしかめつつ、千菊を見やる。
 やはり、動じた様子はない。
 じっとなりゆきを見守るうちに、葵葉はふと疑問をおぼえた。

(それより、妙だな。立花センセなら、こうなることはわかりきってただろうに)

 かつて葵葉のあるじであった蘭雪は、数々のいくさを勝ち抜いた歴戦の猛将だ。
 一騎当千の実力はもちろんのこと、蘭雪は兵法にも精通し、その策略で敵を圧倒することもすくなくはなかった。
 蘭雪の生まれ変わりである千菊がこのような下手を打つなど、葵葉は不思議でならない。
 鼓御前を連れだすにしても、ばれないよう、千菊ならもっと上手くやったはずだ。

(てことは、あの人が姉さまを見舞いに誘ったのは、わざとか? なんのために?)

 しばし思案して、葵葉はすぐにかぶりをふる。