御刀さまと花婿たち

「ひなさんは、わたしをお風呂に入れてくれようとしたのですが、わたしが、その……」

 鼓御前はもにょもにょ……と、消え入りそうになりながら自白。
 するとなぜだろう。
 般若の形相だった葵葉は、ぱっと笑顔をはじけさせるではないか。

「なんだそういうことか。姉さまはおてんばだなぁ。心配しなくても、風呂に入ったくらいで錆びたりしないよ」
「そうなのですか……!?」
「そうだよ。だっていまは、人のすがただろ?」
「うー……!」

 それはわかる。
 たしかにそうではあるのだが、顕現(けんげん)して間もない鼓御前の意識は、やはり刀のまま。
 渋る姉を見かねて、葵葉はこう提案する。

「こわいなら、俺が風呂に入れてあげようか」
「ほんとうですか?」
「もちろん。姉さまもそのほうが安心だろ?」
「はい、葵葉におまかせします!」

 葵葉はおなじ刀であったし、『人』としての先輩でもある。
 この子ほど、じぶんの心情を察してくれる存在もないだろう。
 要するに、鼓御前は安心しきっていた。
 なにもかもをゆだねるほど、葵葉を信頼していた。

「そういうわけだ。姉さまの着替えを用意しておけ」
「あなたに指図されるいわれはありませんが!?」

「姉さまは俺をえらんだ。『御刀さまに背くべからず』──わかったら、俺がやることに口出しはするな」

 にべもない。
 その胸に姉を抱き直した葵葉は、ひなに有無を言わさず、沓脱石(くつぬぎいし)に草履を脱ぎ捨てた。