御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 ゴーン……
 鐘の音がひとたび鳴るころ。水平線の向こうに夕陽がかくれ、夜の帳がおりる。

「制服は今晩中に仕上げるから、また明日の朝、おうかがいするわね」

 採寸結果を万年筆でさらさらと書きつけた手帳をぱたんと閉じ、虎尾はにっこりと笑みを浮かべた。

(あらためて見ると……すごくきれいな方ね)

 寝間着に着替えた鼓御前は、目前で座布団に腰を落ち着けた虎尾をそっと見つめる。

 年のころは、おそらく二十代なかば。
 (かんなぎ)といえば和装が基本のはずだが、彼は白い詰め襟のシャツに黒のジャケットを羽織り、紫の袴風パンツスタイルだ。
 髪も癖のある紫紺色にところどころ金色がまじり、化粧もほどこしているようだ。
 右目の下の泣きぼくろが印象的で、唐茶色(からちゃいろ)のまなざしがなんとも艶っぽい。
 目を引くよそおいは、彼の美意識の高さゆえだろう。

「さてと。ひと仕事すませたところで、おしゃべりでもしましょうか」
「おしゃべり、ですか?」
「そう。つづちゃんもまだ顕現したばかりで、わからないことだらけでしょう。だからここ兎鞠島について、知ってもらおうと思ってね」
「ほんとうですか? わたし、この島やみなさんのこと、もっと知りたいです。教えてください!」
「うふふ、純粋で可愛らしい御刀(おかたな)さまだこと。ご期待には応えなくちゃね」

 虎尾はくすりと笑みをこぼすと、湯気を立てる湯呑みへ口づける。
 それから紅色にいろづいたくちびるをひらいた。

「兎鞠島は、古くから日本中の穢れが潮風に運ばれてくる場所。〝(ヤスミ)〟との闘いの歴史をたどれば、数百年にもおよぶわ。そして覡の家系で、御三家(ごさんけ)が中心になってあやかしたちと闘っているの」

 退魔の立花家。
 創造と保存の九条家。
 継承の神宮寺(じんぐうじ)家。
 これらは総じて、御三家と呼ばれる。

「立花家は〝(ヤスミ)〟を祓う優れた退魔師を多く輩出してきた家系。九条家は鍛刀(たんとう)や手入れといった刀剣の製造と保存をになう家系。そして御刀さまを含めたすべての刀剣は、神宮寺家が所蔵のもと、管理しているわ。後世へ継承していくためにね」

 湯呑みのふちについた紅を懐紙でふき取りながら、虎尾は続ける。