御刀さまと花婿たち

虎尾(とらお)さま!」

 はっとしたようなひなの声で、鼓御前も我に返る。
 まばたきをすれば、障子のそばに人影があるのがわかった。
 すらりとした長身で、千菊と同じいわゆる成人男性のように見受けられたが──
 鼓御前は、おずおずと目前の人物を見上げる。

「もー、ひなちゃんったら。ソレは可愛くないから、呼ぶなら(はな)ちゃんって呼んでっておねがいしたでしょ?」

 ひなに虎尾と呼ばれたその人物は、大げさに肩をすくめると一変、鼓御前の正面でひざをついた。

「お初にお目にかかりますわ、御刀(おかたな)さま! アタシのことは花ちゃんとお呼びくださいな。早速だけど、アタシもつづちゃんって呼んでいいかしら?」
「わっ……えっと、は、はい、大丈夫です!」

 気づいたらじぶんよりもひと回りは体格の大きい人物が目の前にいて、両手をぎゅうっとにぎってきたのだ。
 鼓御前も反射的にうなずいてしまう。

「覡さま! 鼓御前さまがおどろいていらっしゃいます!」
「あらやだ、アタシったら。カワイコちゃんがいるからついテンションブチ上がっちゃったわ。ごめんなさいねぇ」

 鼓御前の手を離した人物が、紅色にいろづいた口もとに手をあて、「うふふ」と上品に笑ってみせる。

(ふるまいは女性のようだけれど……男性の方、よね?)

 落ち着いて状況を整理しようとこころみる鼓御前だったが、無理だった。

「え……えっ?」

 情報量が多すぎた。
 人の身を得てまだ二日目の鼓御前が、彼(彼女?)のような人種を理解できるはずもなく。
 ぷしゅーと頭から湯気をだして固まる。

「あらあら、パンクしちゃった」

 壊れたロボットのように動かなくなった鼓御前の背を支えながら、そもそもの原因である人物がにっこりと笑みを浮かべる。

「アタシみたいな人間はね、『オネェさま』っていうのよ」
「お、おねぇさま……?」
「そそ。きけばなーんか『典薬寮』がゴタゴタしてるらしいじゃない? そういうわけで、アタシがここにきたってわけ」

 そういえば先ほど、ひなが言っていた。

「花ちゃんおねぇさまも、覡さま……なのですか?」
「えぇ、もちろん。一級神使、覡名は虎尾。学校の先生なんかもやってるわ。怪しい者じゃないから安心して」

 覡であり学校の先生。
 となると、千菊と同じ神梛高等専門学校の教諭ということだ。
 鼓御前が思い返す限り、入学式に参列した教員のなかに虎尾のすがたはなかったはずだが──

「さてと。アタシが今日ここにきた用件なんですけれど」

 ぱんっと両手を打ち鳴らした虎尾が、まばゆい笑みを咲きほこらせる。

「とりあえず、そのお着物脱ぎましょうか、つづちゃん?」
「はい?」