御刀さまと花婿たち

 ぐい、と力強い腕にさらわれた直後。
 押し寄せる『力』の奔流から、だれかの影が鼓御前をかばった。

「姉さま、俺の声がきこえる?」

 聞き慣れた声。
 いまもむかしも、じぶんを姉と呼ぶのはたったひとりだけ。

「……葵葉……?」
「よかった……もう大丈夫だからな」

 ぼんやりとした視界で鼓御前が見わたすと、どうやら葵葉に抱かれているらしかった。
 なんとか呼びかけに応じれば、葵葉も安堵した様子で姉をきつく抱きしめる。

「ちょっとこれ着てて」

 それから葵葉は、自身が身にまとっていた制服の上着──学ランを鼓御前へ羽織らせた。
 すると、なんということだろう。

(あら……? 息苦しく、ない……?)

 あれだけ打ちつけていた『力』の奔流が、すっと消え入ったのだ。
 またたく間に荒々しい波が引き、あとには葵葉の香りが鼓御前をつつみ込むだけ。
 ひとつ深呼吸をするうちに、意識もはっきりとしてきた。
 そこであらためて、鼓御前が室内に目を向けると──

「で、この状況どうすんだよ、立花センセ。こいつに姉さまを会わせたあんたが原因だろ?」
「そうですね、否定はしません」
「……あるじさまっ!?」

 いつの間にだろうか、千菊のすがたがあった。

「感情を乱して霊力を暴走させるとは、未熟者が」

 葵葉や千菊だけではない。桐弥がどこからともなく現れ、鼓御前のからだを支える。

「父さま……これは、いったい……?」
「知らん。あの竜面小僧がおまえをつれてどこぞの小僧を見舞うというから、保護者として付き添いに来ただけだ。そら見てみろ。小僧どもにまかせていたら、ろくなことがない」

 現状を述べる桐弥の物言いは、辛辣なものであった。
 愛娘が脅かされ、相当腹を立てているようだ。

「そうだわっ……莇さん! 莇さんは大丈夫なのですか!」
「おまえは他人のことばかり……はぁ」

 桐弥はため息をもらすと、おもむろに右手で正面を指し示す。

「鼓御前、さま……つづみごぜん、さま……うぐっ!」

 ピーッ、ピーッ、ピーッ!

 けたたましい電子音がひびきわたる中、うわごとのように鼓御前を呼んでいた莇がうめき声をあげる。

「ぐっ……うぁあ!」
「莇さん!」

 莇は苦悶の表情で、自身ののどもとを押さえていた。
 目を凝らし、鼓御前は異変に気づく。

(莇さんの首……なにか、ある? 痣のような……)

 いま一度まばたきをして、鼓御前は確信する。
 間違いない。莇の首に刻まれた痣のような箇所から、すさまじい霊力の暴走を感じる。

「『痣持ち』──なるほど。そいつは鬼塚(おにづか)の小僧か」
「父さま……?」

 固唾を飲んで見守る鼓御前のそばで、桐弥が何事か気づいたようで。

「彼が御刀さまにたいして強い憧れをいだいていたことは、話にはきいていましたが……」

 そして千菊もまた、ひとりごとのようにつぶやいたのち、鼓御前をふり返る。