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異例の入学式も、つつがなく終了した。
校舎の見学が行われた後、教室で明日以降の連絡事項を知らされ、新入生は解散となる。
「あるじさま──千菊さま!」
昼前にはすべての日程を終えた。
けれども鼓御前が想い焦がれた青年の背へ駆け寄ることができたのは、それから小一時間ほどたってのことだった。
「おやおや。校内では『先生』でしょう?」
「ごめんなさい……がまんできなくて」
ふり返りざま、言葉では鼓御前をたしなめる千菊も、竜頭の面からのぞく口もとをゆるませる。
まんざらでもなさそうだ。
「ほらね、また会えると言ったでしょう? 安心しましたか」
「はい、あるじさま……」
「ふふ、かわいい子。こっちにおいで、私のつづ」
「はいっ!」
いざなわれるがまま、千菊の胸へ飛び込む。
肺いっぱいに息を吸えば、たちまちほのかに甘い香りで満たされた。
千菊が白衣に焚きつけた、白檀の香らしかった。
木造の廊下ではヒノキが香り、窓からはあたたかな日光が射し込む。
(まるで、森のなかにいるような心地だわ)
しなやかながら力強い両腕にいだかれ、鼓御前はしばし幸福に酔いしれる。
「わたしも学び舎に通うなんて。まだ実感がなくて、ふわふわとした気分です」
「せっかく人の身を得たんですから、いろんな人と交流を深めるのも、悪くないでしょう」
それは建前で、『典薬寮』としては、『御刀さまの保護観察措置』としてこのような方針にいたったというのが、実際のところだが。
お上の意向よりも目前ではにかむ少女のほうがはるかにたいせつな千菊は、むやみに水を差すような真似はしない。



