御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 人の身を得た刀の付喪神、目覚めたばかりの御刀さまは、神気が不安定だ。
 万が一にそなえ手入れ師の覡を控えさせておくことが、『典薬寮』の意向らしかった。
 もっとも、その肝心な人材選出を議論する前に、さっさと桐弥が駆けつけたのだが。

「眠れない原因に心当たりは? 神気の異常か」
「それが、よくわからないのです……どこか痛いとか、おかしいところはないように思うのですが……でも」
「でも?」
「なんだか、ここがざわざわして……落ち着かないんです」

 そういって自身の胸もとへ手を当てた鼓御前は、ひどく不安げな表情だ。
 まるで心細くて泣きそうな、幼子のように。

「……なるほどな。こっちで横になれ」
「えっ……原因がおわかりになったのですか? それに、そちらは父さまのお布団ではっ!?」
「いいから横になれ」

 気後れから後ずさる前に、かかえていた枕を取り上げられてしまう。
 じぶんの枕を布団の外へ追いやった桐弥が、かわりに鼓御前の枕を置く。
 ここに来い、ということなのだろう。

「失礼、いたします……」

 うながされるまま、鼓御前はおずおずと身を横たえる。
 枕へ頭をのせると、肩まで布団をかけられた。
 そっと天井から視線をはずせば、布団の脇で正座をした桐弥が右手を引くところだった。

「父さまは、おやすみになられないのですか?」
「布団がひとつしかないからな」
「枕はふたつ並べられそうですが……?」

 きょとんと首をかしげる鼓御前の疑問に、それまでぴくりとも動じなかった桐弥のほほの筋肉が引きつる。
 要するに、添い寝をしてほしいということだ。鼓御前にそのつもりがなかったとしても。
 鼓御前も戸惑っていた。
 葵葉や千菊はふれようとしてくるのに、桐弥はまったく逆の反応をするからだ。
 現に、ここまで会話を交わしたなかで、桐弥がふれたことは数えるほどしかない。
 それが無性にさびしいと、鼓御前は思う。

「ごめんなさい……わたし、人のことはよくわからなくて……『眠る』というのも、赤子でさえできる、当たり前のことだときいています。そんな簡単なこともできずに、幻滅なされましたよね……」

 情けないことだと思いながら、鼓御前は右手を伸ばし、紺の袖をつかむ。
 そうしてすがらなければ、心細くて、不安で、さびしくて、どうにかなってしまいそうだった。