漆黒の空。
しめやかな上弦の月に、八重桜が寄り添う。
鼓御前にとっては、数百年ぶりに蔵を抜けだし、はじめてむかえる夜だった。
十二畳一間に、敷かれた布団は一組。
絹の寝間着に着替え、あとは床につくだけ。
しかし鼓御前は極上の羽毛布団の上へ座り込み、とほうに暮れていた。
「困ったわ……どうしたらいいのかしら」
寝支度の際、「ご用がありましたら、いつでもなんでもお申しつけを!」とひながはりきっていた。
けれど『困ったこと』をつたえたところで、今度はひなを困らせてしまうことになるだろう。
だからこそ、ひとり悶々と頭を悩ませていた鼓御前もついにはたまりかね、腰を上げる。
そろり、そろりと膝立ちで移動し、ふすまのそばまでやってきた。
「あの……もし。おやすみでしょうか? 父さま……」
ひかえめな問いに、返答はない。
しょんぼりと肩を落とした鼓御前が、布団へもどろうとしたときだった。
ふすまがひらかれ、鳶色の髪に紫水晶の瞳をした少年がすがたを現した。
「どうした」
桐弥は紺の寝間着すがただった。
ふいをつかれたこと、申しわけなさも相まって、鼓御前は慌てふためいてしまう。
「あっ、お、起こしてしまいましたか? ごめんなさい、その……」
「眠れないのか」
「うぅ……!」
早々に図星をつかれた。
羞恥にほほが熱くなる。
かかえた枕へ顔をうずめてしまった鼓御前を、思慮深い紫の双眸がとらえる。
「来い」
起伏に乏しい、たったひと言。
だけれど、思いがけないその言葉に、はじかれたかのごとく顔を上げる鼓御前であった。
しめやかな上弦の月に、八重桜が寄り添う。
鼓御前にとっては、数百年ぶりに蔵を抜けだし、はじめてむかえる夜だった。
十二畳一間に、敷かれた布団は一組。
絹の寝間着に着替え、あとは床につくだけ。
しかし鼓御前は極上の羽毛布団の上へ座り込み、とほうに暮れていた。
「困ったわ……どうしたらいいのかしら」
寝支度の際、「ご用がありましたら、いつでもなんでもお申しつけを!」とひながはりきっていた。
けれど『困ったこと』をつたえたところで、今度はひなを困らせてしまうことになるだろう。
だからこそ、ひとり悶々と頭を悩ませていた鼓御前もついにはたまりかね、腰を上げる。
そろり、そろりと膝立ちで移動し、ふすまのそばまでやってきた。
「あの……もし。おやすみでしょうか? 父さま……」
ひかえめな問いに、返答はない。
しょんぼりと肩を落とした鼓御前が、布団へもどろうとしたときだった。
ふすまがひらかれ、鳶色の髪に紫水晶の瞳をした少年がすがたを現した。
「どうした」
桐弥は紺の寝間着すがただった。
ふいをつかれたこと、申しわけなさも相まって、鼓御前は慌てふためいてしまう。
「あっ、お、起こしてしまいましたか? ごめんなさい、その……」
「眠れないのか」
「うぅ……!」
早々に図星をつかれた。
羞恥にほほが熱くなる。
かかえた枕へ顔をうずめてしまった鼓御前を、思慮深い紫の双眸がとらえる。
「来い」
起伏に乏しい、たったひと言。
だけれど、思いがけないその言葉に、はじかれたかのごとく顔を上げる鼓御前であった。



