御刀さまと花婿たち

「では簡単に説明しますと、『典薬寮』はいま、大混乱に陥っています。だいじにだいじにお祀りしてきた御刀さまが、()()()と契りを交わしてしまいましたからね」
「それなら、俺を消すか?」
「まさか。私たちは正義の味方であって悪の組織ではありませんから、そんな手荒なことはしません」
「へぇ、で?」
「要はきみが、()()()()()()()()()()()というわけです。なので、はい」

 千菊がほほ笑みを浮かべたまま、腰を浮かせた直後。

 トンッ──……

「なっ……」

 見ひらかれる常磐色の双眸。
 葵葉は何が起こったのかも理解できないうちに、その場にくずれ落ちた。

「葵葉!」
「心配はいりません。気絶させただけです。相変わらず、わんぱくな子ですからね」

 的確に延髄へ手刀を落とした千菊は、そういって反対の腕で意識のない葵葉を受け止めてみせる。
 どれほど反感をあらわにされようと、葵葉を見つめる千菊のまなざしは、親愛に満ちあふれていた。
『青葉時雨』もまた、蘭雪の刀に違いはないのだ。

「ちゃんとお話をしたいので、この子は『典薬寮』へ連れ帰ります」
「御刀さまはいいのか」
「そうですねぇ。まだお目覚めになったばかりで人の身にも不慣れでしょうが、凄腕の手入れ師さんがそばにいらっしゃるようですから、大丈夫でしょう。そうですよね? 九条一級神使」
「……いいだろう」

 千菊の言葉を受け、桐弥はおのれの役目を心得たらしかった。

「それでは、夜道もこわいですし、そろそろおいとまします」
「あのっ、あるじさま……千菊さま!」

 鼓御前はとっさに声を張り、軽々と葵葉をかかえ上げた千菊を呼びとめる。
 が、返ってきたのは、やさしくなだめるようなまなざしだ。

「私だって、きみとはなれるのはつらいです、さびしいです。でも、また明日会えます」
「……ほんとうに?」
「もちろん。明日も、明後日も。だから、すこしだけがまんできますね?」
「……はい、がまん、できます」

 はなれがたかったけれども、これ以上袖を引くことは、千菊の望むところではないと理解できた。

「いい子。じゃあ、またね」

 ことさらおだやかにほほ笑まれたなら、にぎりしめた純白の袖を、手放すほかない。

 日が落ち、夜が深まる。
 白き衣をひるがえし、闇へ身を溶けこませる青年の後ろすがたを、鼓御前はいつまでもいつまでも、見つめていた。