御刀さまと花婿たち

「ふふ、餌付けされている雛鳥みたいで、可愛いですねぇ」

 お茶菓子を食べさせるという役目を終えた右手は、菓子楊枝を置くなり、鼓御前の脳天へふれる。

「上手に食べられましたね。よくできました」
「あるじさまにほめていただけて、()()はうれしゅうございます」

『つづ』というのは、蘭雪がたびたび口にしていた、鼓御前の愛称だ。
 蘭雪は眠るときでさえ、枕もとに鼓御前をそば置き、片時も離そうとはしなかった。
 そんなあるじが、鼓御前もだいすきだった。

「つづ──いいえ、鼓御前。私は今世の名を、立花千菊(たちばなちあき)と、そのようにいいます」
「立花、千菊さま……」

 そっと言霊にすれば、鼓御前の胸にぽう……と熱が灯る。
 つい一瞬前とは段違いに、彼の存在を感じることができる。
 より強固に、えにしがつむがれたのだ。

「『立花千菊』はきみのあるじではありませんが、また、仲良くしてくれますか?」
「もちろんにございます……っ!」
「千両役者のお涙頂戴芝居に拍手喝采だな。んで、『仕事』に来たんだろ。さっさと用件を言ったらどうだ」

 放っておけば、いつまででも感動の抱擁を交わしているだろうと容易に想像できたので、そうはさせるかと声をあげる葵葉。
 人の身の利点は、嫉妬を直接ぶつけられることだ。
 皮肉まじりの矛先を向けられた青年──蘭雪あらため千菊は、「おやおや」と肩をすくめてみせる。
 その面持ちこそ、にこやかなままだが。

「まわりくどい前置きはいい。端的にお聞かせねがおうか、立花神使(しんし)。〝(ヤスミ)〟よりも稀有で化け物な特級の覡であるあんたが、わざわざ出てきた理由。お上の意向とやらをな」

 淡々と言い放つ桐弥のひと言が、追い討ちだった。