御刀さまと花婿たち


  *  *  *

 
 人間と付喪神。
 その力関係は、いうまでもなく一目瞭然である。
 恭しく花房(はなぶさ)を垂らす藤の苔玉が飾られた床の間側に、鼓御前の座布団は用意された。

「どうぞ、お召しあがりくださいませ」
「ありがとうございます、ひなさん」
「美味しそうなお茶菓子ですね。ありがとう」

 盆をかかえたひなが、にこりと愛嬌のある笑みとともに、湯呑みと桜の練切りを二組並べ置く。
 同様に鼓御前と向かい合うふたりの少年たちへも茶をはこび終えると、会釈を残し、しずしずと退室した。

 客間は静けさにつつまれ、どうにも落ち着かない鼓御前は、そっと正面へ視線を向けた。
 向かって左手側から、無表情で押し黙る鳶色の髪の少年。
 そのとなりに、そっぽを向いた黒髪の少年という並びだ。
 諸々あってこのように落ち着いたのだが、もっと違う配置はなかったのだろうか。

「あのう……このお茶とお菓子は、どうすればいいのでしょうか?」

 鼓御前はいたたまれず、おずおずと挙手をする。
 険悪な少年らへ話題の提供もかねていたが、膠着状態は相も変わらず。
 鼓御前の左隣に腰をおろした青年が、見かねて応じる。

「目にするのは、はじめて?」
「はい……口に入れるもの、というのはわかるのですが」

 単なる鋼の塊でしかなかったころ。
 人間たちが『食事』をする光景をながめていたことを、鼓御前は記憶の奥底から掘り起こす。
 いのちをつなぐために必要なこと。
 息をするように当たり前におこなうこと。
 しかしながら、刀の付喪神である(さが)がまだ色濃い鼓御前にとって、『それ』は当たり前ではなかった。

「大丈夫、緊張することはありませんよ。熱いお茶は、すこし冷ましましょうか」

 ふー、と息を吹きかけて湯気を飛ばした湯呑みをさしだされ、鼓御前は両手でつつみ込むようにして口をつける。

「お茶菓子も食べやすいように切り分けましたから、はい、どうそ」

 菓子楊枝でさらに半分にされた桜の花びらの練切りが、口もとへそえられる。
 茶同様、言われるがままにぱく、と口に含んだ鼓御前は、何度か奥歯ですり潰したのち、咽頭の奥へ落とし込んだ。

「どうですか?」
「お茶は、ほわほわして……お菓子は、ふわふわします」
「美味しかったんですね。よかった」
「おいしい……これが『美味しい』ですか」

 言われてみれば、すうすうしていた腹のすきまに、嚥下したものがすとんと落ち込むような感覚がする。
 これが『腹が満たされる感覚』なのだろうか。

「もっと食べてもいいんですよ?」
「いただきます」

 手ずから食べさせる甲斐甲斐しい世話は、練切りがなくなるまで続いた。