「任務完了っと」
音もなく、葵葉が脇差をおさめる。
朱色につやめく鞘がほのかな光を発し、やがてセーラー服すがたの少女が現れた。
「島民の保護と、迅速な〝慰〟の討伐。葵葉、莇さん、見事な連携でした。お疲れさまです」
「えっ……?」
刀が消えたかと思えば、ひとになったのだ。
男児はおどろき、目を丸くする。
「こわかったですね。でも、悪いのはもうやっつけました。大丈夫ですからね」
鼓御前は呆ける男児のもとにやってきて、にこにこと頭をなでる。
「さてと! 授業も途中でしたし、学校にもどって……」
「姉さまストップ」
「御手入れがまだです」
「これくらい、なんのなんの」
「だめに決まってんだろ!」
「そうですよ。さぁこちらに、つづさま!」
「あのっ、ふたりとも……」
じりじりと詰め寄る葵葉と莇に、鼓御前が一歩後ずさると、ぽすん。なにかが背中に当たる。
「来てみて正解だったな。またおまえは、手入れをおろそかにしているのか」
「あら……父さま?」
鼓御前がふり返ると、桐弥がいた。
例によって、純白の袴すがた。
桐弥は組んでいた腕をほどくなり、鼓御前の手を引く。
「来い。手入れしてやる」
「ちょっと九条センパイ! 俺の仕事取らないでくれる!?」
「うるさいな。朱丸、そこの小僧の相手をしておけ」
「コッコッコッ、クェーッ! クェエーッ!」
「おまえのほうがうるさいわ!」
「はわわ……ふたりとも、喧嘩しないで……」
「大丈夫ですか? つづさま」
「あざみさぁん……!」
バサバサと羽根をまき散らす赤い孔雀と、格闘をする葵葉。
問答無用で、桐弥に連行される鼓御前。
そんな鼓御前に、駆け寄る莇。
「えっと、ひなさん! その子のこと、よろしくお願いしますね!」
こんなときでも、鼓御前は気遣いの言葉を忘れない。
ひなはくすりと笑って、「かしこまりました」と頭を下げた。
「さぁ、おともだちのところに帰りましょう」
「あっ、うん!」
ひなに手を引かれ、男児が歩きだす。
幼稚園のほうへ向かっていると、そわそわした様子で、男児が見上げてくる。
「ねぇ、おねえちゃん」
「なぁに?」
「さっきのおねえちゃんと、おにいちゃんたち、だぁれ? つよくて、かっこよかった!」
きらきらとした、純粋な瞳だった。
ひなはおもむろに、視線をめぐらせる。
「天の手入れは僕がするって言ってるだろ」
「独り占め禁止ですからー!」
「つづさま、たんぽぽが咲いています。かわいらしいですね」
「そうですねぇ……」
少女のまわりには、真白い衣をまとった少年たち。
無垢なその色が、この季節にはよく映える。
ひなはほほ笑み、そっと視線をもどす。
「御刀さまと、花婿たちです」
ふわり。
春の風が、陽だまりとともに香った。
【了】
音もなく、葵葉が脇差をおさめる。
朱色につやめく鞘がほのかな光を発し、やがてセーラー服すがたの少女が現れた。
「島民の保護と、迅速な〝慰〟の討伐。葵葉、莇さん、見事な連携でした。お疲れさまです」
「えっ……?」
刀が消えたかと思えば、ひとになったのだ。
男児はおどろき、目を丸くする。
「こわかったですね。でも、悪いのはもうやっつけました。大丈夫ですからね」
鼓御前は呆ける男児のもとにやってきて、にこにこと頭をなでる。
「さてと! 授業も途中でしたし、学校にもどって……」
「姉さまストップ」
「御手入れがまだです」
「これくらい、なんのなんの」
「だめに決まってんだろ!」
「そうですよ。さぁこちらに、つづさま!」
「あのっ、ふたりとも……」
じりじりと詰め寄る葵葉と莇に、鼓御前が一歩後ずさると、ぽすん。なにかが背中に当たる。
「来てみて正解だったな。またおまえは、手入れをおろそかにしているのか」
「あら……父さま?」
鼓御前がふり返ると、桐弥がいた。
例によって、純白の袴すがた。
桐弥は組んでいた腕をほどくなり、鼓御前の手を引く。
「来い。手入れしてやる」
「ちょっと九条センパイ! 俺の仕事取らないでくれる!?」
「うるさいな。朱丸、そこの小僧の相手をしておけ」
「コッコッコッ、クェーッ! クェエーッ!」
「おまえのほうがうるさいわ!」
「はわわ……ふたりとも、喧嘩しないで……」
「大丈夫ですか? つづさま」
「あざみさぁん……!」
バサバサと羽根をまき散らす赤い孔雀と、格闘をする葵葉。
問答無用で、桐弥に連行される鼓御前。
そんな鼓御前に、駆け寄る莇。
「えっと、ひなさん! その子のこと、よろしくお願いしますね!」
こんなときでも、鼓御前は気遣いの言葉を忘れない。
ひなはくすりと笑って、「かしこまりました」と頭を下げた。
「さぁ、おともだちのところに帰りましょう」
「あっ、うん!」
ひなに手を引かれ、男児が歩きだす。
幼稚園のほうへ向かっていると、そわそわした様子で、男児が見上げてくる。
「ねぇ、おねえちゃん」
「なぁに?」
「さっきのおねえちゃんと、おにいちゃんたち、だぁれ? つよくて、かっこよかった!」
きらきらとした、純粋な瞳だった。
ひなはおもむろに、視線をめぐらせる。
「天の手入れは僕がするって言ってるだろ」
「独り占め禁止ですからー!」
「つづさま、たんぽぽが咲いています。かわいらしいですね」
「そうですねぇ……」
少女のまわりには、真白い衣をまとった少年たち。
無垢なその色が、この季節にはよく映える。
ひなはほほ笑み、そっと視線をもどす。
「御刀さまと、花婿たちです」
ふわり。
春の風が、陽だまりとともに香った。
【了】



