御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 足の生えた達磨(だるま)が、町を爆走している。

「オッホッホッホッ!」

 場所は住宅地のど真ん中。
 達磨は高らかな笑いをひびかせながら、ドタドタと公園の周囲を走りまわっている。

「うぅ……おねえちゃん……」
「泣かないで。大丈夫よ」

 公園内では、買い物袋を肩にさげたひなが木の影に隠れていた。
 かたわらにはすすり泣く男児が。
 近くにある幼稚園の園児だ。
 買い出しに向かう途中で、ひなはこの場面に居合わせた。
 幼稚園に男児を送り届けようにも、達磨の足が速すぎて、いま出ていったら追いつかれてしまう。

「こわいよぉ……」
「大丈夫」

 危機的状況にありながら、ひなは男児をはげますのをやめなかった。

「きっと大丈夫。もうすぐ、御刀(おかたな)さまたちが来てくださるから」
「おかたなさま……?」

 そのときだ。

「オホッ!」

 達磨と、目が合ってしまった。
 ひとつしかない公園の入り口から、達磨がドスドスと侵入してくる。

「ッホォ〜ン!」

 おたけびをひびかせる達磨。
 赤い巨体が、土ぼこりをまき上げながら突進してくる。

「ひゃっ……!」

 男児が悲鳴を上げ、ひなはとっさに抱き寄せる。
 その直後のことだった。

 ヒュッ!

 どこからともなく放たれた矢が、ひなの目前の地面に突き刺さる。
 矢には、札のようなものがむすびつけられており。

「──『(けつ)』」

 カッと閃光が走る。
 またたく間に結界が張りめぐらされ、達磨は勢いよく激突してしまう。

「ンッン〜!?」

 はじき飛ばされる達磨。

「お怪我はありませんか、姉上」
「莇……!」

 民家の屋根上でたんっと踏みきり、莇が危うげなく地面に降り立つ。
 颯爽と駆けつけた莇は、黒漆(くろうるし)の弓を手にしていた。
 すると、なんということだろう。
 一瞬後には弓が黒い亀へすがたを変え、莇の肩に乗っていたのである。

「そのこどもは? 逃げ遅れか?」

 莇に続き、葵葉がとっと着地する。

「えぇ。おともだちとかくれんぼをしていたらしいのですが、かくれる場所をさがしてここまで来たら、ひとりになってしまったようで」
「ってなると、幼稚園の先生たちはいまごろ大騒ぎしてるだろうな」

 すばやく状況を把握した葵葉は、すぅ……と消えゆく結界の先を見やる。

「けどま、俺たちが来たからには全然問題ナシ。覚悟しろよ? ちょびヒゲだるま」
「んみみぃ〜っ!」

 刀をにぎった葵葉がにやりと笑い、その足もとで白丸がしっぽを逆立てる。

「それじゃあ行くぞ。──だぁるまさんが、こーろんだっ!」

 駆けだした葵葉は、蹴りをくりだし達磨の足を払う。

「オホッ!?」

 バランスをくずした達磨は、そのままごろんとひっくり返り。
 ──ぶすり。
 墨でバツ印を書かれた右目が、貫かれる。
 漆黒の刃をした脇差の、柄の部分まで。

「ホッ……ホォオオオン!」

 じたばたと両足を動かした達磨は、そのまま煙のように消えていった。