御刀さまと花婿たち

 季節はうつろう。
 色とりどりの花が咲きほこる春。
 神梛(かんなぎ)高等専門学校では、新学期がはじまろうとしていた。

「まずはじめに。みなさん、進級おめでとうございます」
「おめでとうございまーす!」

 ぱちぱちぱち。
 稽古場に拍手が鳴りひびく。

「今日からみなさんも二年生。そして三級の(かんなぎ)ですね。実技授業も増えていきます。がんばりましょう」

 ホワイトボードの前で、千菊(ちあき)がほほ笑む。
 となりには、満面の笑みを浮かべた鼓御前(つづみごぜん)
 そしてなにやら青い竜のようなものが、『おめでとう』と書かれた弾幕をくわえて、ひらひらと飛んでいる。
 一連の流れを受け、浅葱(あさぎ)差袴(さしこ)をはいた少年たちが、ひそひそと言葉をかわす。

「なぁ、どこからツッコめばいいと思う?」
立花(たちばな)先生のお面の下が、超絶美形だったことか」
「顔だけで食ってけるレベルだよな」
「なんか竜みたいなやつが、そのへんをふつうに飛んでることか」
「あれは話題にしたら負けだと思う」
「それとも、鼓御前さまが今日もめちゃくちゃ可愛いことか」
「わかりきったこと聞くなよもう」
「おぉ……われらがオアシスよ」

 要点をおさえつつも、少年たちは困惑するさまを見せなかった。
『鬼神』と恐れられる千菊の無理難題に、この一年(いや)(おう)でも鍛えられたのだ。
 ちょっとやそっとのことでは、動じなくなっていた。
 そんな彼らのなかに、異彩を放つ者がふたり。
 純白の差袴をはいた少年たちだ。

「こーらシロ、そこで毛づくろいすんな。おろしたての袴に毛玉がつくだろうが」
「うみゃあ」

 床には寝転がった白丸(しろまる)。身をよじり、葵葉(あおば)の袴の裾にぐりぐり頭をこすりつけている。
 もはや虎ではなく猫だ。

玄丸(くろまる)、危ないからよじ登るのはやめなさい。だから……はぁ」

 葵葉のとなりでは、黒い亀に背中をよじ登られている(あざみ)のすがたが。
 落ちたら危ないとたしなめても、玄丸は器用に登って肩に乗る。
 莇は早い段階でいろいろとあきらめた。

 この場において、葵葉、莇、そして千菊の三名は、白衣(びゃくえ)に白袴と、上下ともに純白のよそおいだ。
 藤の白紋はないかわりに、胸もとに金糸で刺繍がなされている。
 それぞれの名を表す花の刺繍だ。

「さて、早速授業をはじめましょうか。この春に改定された、(かんなぎ)の階級制度について──」
「んみぃいいいっ!」
「うわっ、びっくりした!」

 千菊に注目していた少年たちは、突然ひびいた白丸の鳴き声に飛びのいてしまう。
「なんだなんだ!?」とざわつくクラスメイトを尻目(しりめ)に、葵葉の対応は慣れたものだった。

「シロが反応したってことは、西のほうだな。行くぞ(あね)さま!」
「わかりました。授業中失礼します、あるじさま!」
「はい、行ってらっしゃい」
「立花先生、なんかふつうに送りだしたし」
「よっし莇、どっちが早く〝(ヤスミ)〟をぶっ飛ばせるか勝負な!」
「遊びじゃないんだぞ! まったく……」
「委員長まで行っちゃった……」

 なにがなにやらわからないクラスメイトたち。
 彼らも遅れてひびきわたる『逢魔の鐘』に、あぁ……と納得した。

「ちなみに。年末や新年度のはじめは断捨離がさかんになる関係で、付喪神の〝(ヤスミ)〟が急増します。試験に出ますので、おぼえていてくださいね」
「そして何事もなかったかのように続行する授業」
「立花先生はさすがの余裕だなぁ……」

 少年たちは遠い目をしつつ、ふたたびはじまる長い長い一年に思いをはせる。

「余裕だなんて、とんでもない」

 どこか宙を見つめる教え子たちをよそに、千菊はつぶやく。だれにも聞こえないささやき声で。

「いつ追い越されるかと、どきどきしていますよ」