御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 木々が色づく季節。
 黄昏へと向かいゆく兎鞠神社の石段に、橙の灯明がともる。
 風の強い曇天(どんてん)のもと。
 ごろごろと空がうなりはじめる。
 風が吹きすさぶ境内に、苧環は立っていた。

「これより選定の儀、神前式を執り行います」

 苧環の宣言とともに、(しょう)の音が舞いあがる。
 風のわななくような雅楽の音が、竜の咆哮のごとき雷鳴にかさなる。
 やがて祝詞の奏上が終わり、鼓御前はゆっくりとまぶたを押し上げた。
 静かな心境で、目前にある真白な綿帽子をかぞえる。ひぃ、ふぅ、みぃ、よ……と。

「それでは御刀さま──鼓御前さま」

 苧環に促され、鼓御前は朱の盃をあおる。
 ひとと神。
 本来交わることのない彼らが、この日、えにしをむすぶ。
 けっして離れることなく、ともにあることを、永遠に誓って。

 その花婿は、白無垢の胸もとに葵の花の刺繍。
 その花婿は、白無垢の胸もとに菊の花の刺繍。
 その花婿は、白無垢の胸もとに桐の花の刺繍。
 その花婿は、白無垢の胸もとに莇の花の刺繍。

 ひとと刀は片時も離れず、寄り添うもの。
 まるで夫婦のように。

「ふつつかな刀ではありますが、これからもよろしくお願いいたしますね」

 花婿たちへ向かって、鼓御前はほほ笑む。
 荒れ狂う風はいつしか凪ぎ、ねずみ色の雲間から茜の光が射し込む。
 恥じらうように染まった紅葉が、ひらひらと、宙を舞った。