* * *
畳にひっくり返った黒い亀が、ぐらぐらと揺れている。
その横で、莇は座布団に腰を落ち着けていた。
内心は、落ち着くはずもなかったが。
東の青龍。
南の朱雀。
西の白虎。
北の玄武。
四方を守護する神。これらを総じて、四神という。
「わたしはこの島の神刀です。みなさんを守るためになにができるか、考えていました」
「それで、結界を……?」
「はい。島全域に結界を張るのは大変だと母さまがおっしゃっていたので、わたしがかわりにやろうかと思いまして!」
「広範囲の結界を維持するのは、ひと苦労なのよ。妖力ゴッソリ持ってかれちゃうわけ。さすがのアタシもひと月はもたないわ」
「はぁ……」
つまり、東西南北を守護するとされる四神を参考に、鼓御前が生みだした眷属。
それがこの黒い亀ということなのだろう。
ちなみに青い竜は青丸ちゃん。
赤い孔雀は朱丸ちゃん。
縞もようの白猫は白丸ちゃんというらしい。
わかりやすい。
「これでもし〝慰〟が出現しても、ビビビッと感じとった四丸ちゃんたちが、どこにいるかすぐに教えてくれます!」
意気揚々と説明をする鼓御前だが、そこで急にしょんぼりと肩を落とす。
「ただ、ごらんのとおりやんちゃさんでして……みなさまに、お世話をおねがいしたいのです」
鼓御前は申し訳なさそうに、みなに短冊状の札を配ってまわる。真っ白な札だ。
鼓御前がためしにその札をかざすと、淡い光とともに、ひっくり返った玄丸が消える。
そしてまっさらだった札に、黒い亀の水彩画が現れた。
「あるじさまに青丸ちゃん、父さまに朱丸ちゃん、葵葉に白丸ちゃん、そして莇さんに玄丸ちゃんをおねがいしたいと思っています。引き受けてくださいますか?」
「そういうことでしたら。かしこまりました」
「よかった! ありがとうございます!」
莇がうなずくと、鼓御前がほっと胸をなでおろした。
とここで、莇はふと疑問に思う。
「ところで、これだけの結界を張っても、鼓御前さまはなんともないのですか?」
「ご心配にはおよびませんわ。この結界の維持は、わたしの神気だけでなく、みなさまの霊力もお借りしていますから」
「そうなのですね。…………うん?」
うっかり納得しかけて、莇は思考停止する。
そんな莇をよそに、鼓御前はにこにこと続ける。
「ここにいるみなさまとは契りをかわしていますので、神気と霊力がなじみやすいのです。より絆を深めていけば、四丸ちゃんたちも立派に成長していくと思います」
「あの、鼓御前さま……」
「そういうわけで、これからもいっしょに、わたしとこの島を守りましょうね!」
「その……おれも、いっしょに……?」
恐る恐る、莇は挙手をする。
鼓御前はきょとんとして、
「あら? 苧環さまにおつたえしていたのですが、お聞きになっていませんか?」
と首をかしげた。
ふるふる、と首を横にふる莇。
「ならばお教えしましょう」と、鼓御前はにっこり。
「わたしのお付きの覡さまは、葵葉、千菊さま、桐弥さま、莇さん。みなさまにおねがいします」
──なにを言われたのか、すぐにわからず。
呆然としたのち、莇はふるえる手で、自身の口を覆う。



