御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 朱の鳥居の前で、(あざみ)はじっと神社の奥を見つめていた。

「……未練がましいな」

 ははっと、乾いた笑いがもれる。
 御刀さまのお付きの覡を選ぶ選定の儀が、ついに執り行われるらしい。
 こうした神事は神宮寺(じんぐうじ)家がになうため、近ごろは苧環(おだまき)が忙しそうにしている。
 今日は三名の候補者がそろって呼びだされたと聞いて、気づいたら、莇は神社をおとずれていた。

「おれは、葵葉の付き添いでやってきただけ」

 だれにでもなく、言い訳をする。
 お付きの覡として、最有力候補は千菊だ。
 だが、桐弥は『奉納祭』での神楽の功績があり、近々九条(くじょう)家当主へ就任する。
 葵葉も覡としては経験が浅いが、『鬼』を滅するために一役買った。
 だれが選ばれたとしても、おかしくはない。

(もし葵葉が選ばれたら……おれは、ちゃんと祝福をしてやれるだろうか)

 莇は、腰帯に差した短刀──此葉(このは)にふれる。
 葵葉に『返した』つもりだったが、あの一件後、ふたたび莇のもとへもどってきた。
「おまえが持ってろ。だいじにしろよな」と、葵葉に手渡されて。

 葵葉はじぶんを信頼してくれている。
 莇だって、葵葉のことを信頼している。
 親友だと、思っている。
 だからこそ、こころから友を祝福できないじぶんが、嫌になって仕方ない。

「たとえ、お付きの覡になれなくても……」

 莇はぐっと頬肉を噛み、言葉を飲み込む。
 こみ上げる想いには、ふたをしてしまおう。
 大丈夫だ。辛抱することは、得意なのだから。

「……莇!」

 鳥居に背を向け、歩きだしたときだった。
 呼び声があり、莇はふり返る。
 見れば、ひなが息を切らして駆け寄ってくるところだった。

「姉上? どうされたのですか」
「こんなところにいたのね。さがしましたよ!」
「はい?」
「もう、聞いてないの?」

 ひなは焦れた様子で、莇の袖を引く。

「さぁ早く。鼓御前さまがあなたをお呼びよ!」
「…………えっ」