「封印の存在をけっして口外してはならない。お役目を放りだすこともできない。苧環さまのご心労は、並々ならぬものであったことでしょう」
子に対する苧環の想いを聞き、鼓御前が思うことは。
「けれど、強いことがすべて正しいと、言えるのでしょうか?」
「……どういうことでしょうか」
「これは、たとえ話なのですが」
鼓御前はひとつ断って、苧環を見つめる。
「流れ橋というものがあります。あえて橋桁がゆるくつくられていて、河川が増水したときに、はずれて流れていきます」
いつだったか、本で読んだことがある。
流れに逆らわず、せき止めないことで、河川の氾濫を防ぐ役割があると。
「どんなに強い橋でも、増水に耐えきれず、壊れてしまうことがあるでしょう。そうなれば、あふれた水に家を流されるひとも出てくる。そうならないための『ものづくりの知恵』が、流れ橋を生みだしたのですね」
ここまで言って、鼓御前はふわりと笑みを浮かべてみせる。
「強いことが、すべて正しいとはかぎりません。あえて弱くあることが、時にはひとびとを救うこともあるのです」
「それが、逃げだすことであっても……?」
「はい。現に、お役目を放棄してでもご家族を守りたいという苧環さまの想いを知ったからこそ、莇さんはがんばれたとおっしゃっていましたよ」
「……!」
ぴくりと、苧環が身じろぐ。
予想外の言葉に、驚きを隠せないらしい。
そこへ鼓御前は、追い討ちをかけることにした。
「苧環の花言葉には、『勝利』という意味があるのだそうですよ。ご家族を想う苧環さまのこころが、勝利を呼びよせた。わたしはそう思っています」
このおだやかな時間は、葛藤があってこそ手に入れることができたもの。
鼓御前は苧環へ、そうつたえる。
「……ありがたきお言葉」
ふたたび、深々と頭を垂れる苧環。
だが次に顔を上げたときには、憑き物がとれたような表情をしていた。
晴れやかな、笑顔だった。
「本日はまことにありがとうございました。わたくしどもは、これにて失礼させていただきます」
「ひと足先に、父と神社にもどりますね。鼓御前さまのお帰りをお待ちすべく、はりきってお掃除いたします。近々だいじな『ご予定』がひかえていることですし!」
苧環を支えながら、ひながはつらつと告げたときだ。
鼓御前は「そうでした!」と思いだすことがあり。
「そのことについてなのですが、苧環さまにおつたえしたいことがあったのでした!」
「私に、ですか?」
「はい。神宮寺家のご当主さまには、いちばん関係があることですので!」
鼓御前は苧環のもとへ歩み寄ると、ふところから札のようなものを取りだす。
つい先ほどまで一生懸命に描いていた、猫……もとい虎の短冊絵だ。
「じつはいま、こうしたものをつくっていまして。ぜんぶで四枚あります。というのも──」
鼓御前はうきうきとした様子で、『それ』について話しはじめる──
子に対する苧環の想いを聞き、鼓御前が思うことは。
「けれど、強いことがすべて正しいと、言えるのでしょうか?」
「……どういうことでしょうか」
「これは、たとえ話なのですが」
鼓御前はひとつ断って、苧環を見つめる。
「流れ橋というものがあります。あえて橋桁がゆるくつくられていて、河川が増水したときに、はずれて流れていきます」
いつだったか、本で読んだことがある。
流れに逆らわず、せき止めないことで、河川の氾濫を防ぐ役割があると。
「どんなに強い橋でも、増水に耐えきれず、壊れてしまうことがあるでしょう。そうなれば、あふれた水に家を流されるひとも出てくる。そうならないための『ものづくりの知恵』が、流れ橋を生みだしたのですね」
ここまで言って、鼓御前はふわりと笑みを浮かべてみせる。
「強いことが、すべて正しいとはかぎりません。あえて弱くあることが、時にはひとびとを救うこともあるのです」
「それが、逃げだすことであっても……?」
「はい。現に、お役目を放棄してでもご家族を守りたいという苧環さまの想いを知ったからこそ、莇さんはがんばれたとおっしゃっていましたよ」
「……!」
ぴくりと、苧環が身じろぐ。
予想外の言葉に、驚きを隠せないらしい。
そこへ鼓御前は、追い討ちをかけることにした。
「苧環の花言葉には、『勝利』という意味があるのだそうですよ。ご家族を想う苧環さまのこころが、勝利を呼びよせた。わたしはそう思っています」
このおだやかな時間は、葛藤があってこそ手に入れることができたもの。
鼓御前は苧環へ、そうつたえる。
「……ありがたきお言葉」
ふたたび、深々と頭を垂れる苧環。
だが次に顔を上げたときには、憑き物がとれたような表情をしていた。
晴れやかな、笑顔だった。
「本日はまことにありがとうございました。わたくしどもは、これにて失礼させていただきます」
「ひと足先に、父と神社にもどりますね。鼓御前さまのお帰りをお待ちすべく、はりきってお掃除いたします。近々だいじな『ご予定』がひかえていることですし!」
苧環を支えながら、ひながはつらつと告げたときだ。
鼓御前は「そうでした!」と思いだすことがあり。
「そのことについてなのですが、苧環さまにおつたえしたいことがあったのでした!」
「私に、ですか?」
「はい。神宮寺家のご当主さまには、いちばん関係があることですので!」
鼓御前は苧環のもとへ歩み寄ると、ふところから札のようなものを取りだす。
つい先ほどまで一生懸命に描いていた、猫……もとい虎の短冊絵だ。
「じつはいま、こうしたものをつくっていまして。ぜんぶで四枚あります。というのも──」
鼓御前はうきうきとした様子で、『それ』について話しはじめる──



