御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 兎鞠島を揺るがす〝(ヤスミ)〟は、消滅した。
 覡によって速やかに事後処理が行われ、島民は数日中にふだんどおりの生活にもどる。
 これにて一件落着。
 長いようで短かった夏が、終わってゆく。

「ここをこうして、と……」

 九条家での生活も、あとわずかというころ。
 鼓御前は文机に向かって、筆を動かしていた。

「なんかちょっと違くない?」
「いえ、これで合っています」 
「姉さまがいいならいいけど」

 葵葉は鼓御前の頭にあごを乗せ、くぁ……とあくびをもらす。
 天気のいい昼下がり。最高の昼寝日和だ。

「というより、葵葉、すこし離れてください。動きづらいです!」
「えぇ、どうしようかなぁ」

 葵葉はにやりと笑いながら、これみよがしに鼓御前を後ろから抱き込む。
 きまぐれに屋敷へやってきたかと思えば、ずっとこの調子だ。
 抱きついて離れない弟に、鼓御前はそっとため息をもらす。

「姉さまさぁ、なんで机とにらめっこなんかしてんの?」
「あのですね。わたしは遊んでいるわけではなく、とても重要なことをしているのです」
「重要なこと? ファンシーな動物のお絵描きが?」
「むむむ……」

 文机の上には、短冊状の和紙が四枚ほど。
 そのうちの一枚に、鼓御前が絵の具で絵を描いていた。

「かわいい猫だねー」
「虎さんですぅ!」
「ぷはっ!」

 涙目になって抗議する姉に、葵葉は吹きだした。
 鼓御前は虎だと言い張るが、和紙に描かれたのは子猫のようなかわいらしい動物。
 縞もようがあるため、かろうじて虎と認識できる程度だ。

「ひどい……」
「ごめんごめん。意地悪してるわけじゃないんだよ? せっかく来たんだからさ、姉さまにかまってほしくて」

 口では謝りながらも、葵葉は笑みを浮かべて鼓御前にすり寄る。

「ほんとうにおまえは、甘えんぼうですね」
「そりゃあ、刀だったころにくらべたらな」

 前世(まえ)と違って、おのれの意思で行動できる。
 手をのばせば、ふれられるのだ。

「いまの俺なら、姉さまを抱きしめられる。なら、我慢する必要はないだろ?」
「もう……」

 どうにも困ったもので。
 鼓御前は刀だ。
 刀は、ひとのふところにあるもの。
 要するに鼓御前自身は、だれかに抱きしめられることを好ましく思う(たち)なのだ。
 今日も甘えたがりの弟に根負けをして、鼓御前は筆を置き、その身をあずける。

「仲良きこと、美しきかな──ってやつかしら?」

 しばらく葵葉の好きにさせていると、ひょっこり虎尾がのぞき込んできた。

「母さま? どうされました?」
「おくつろぎ中、ごめんなさいねぇ。つづちゃんにお客さまがいらしたから、呼びにきたの」

「そういうわけで」と葵葉を見やった虎尾が、にっこり。

「アタシはお茶の準備をするから、つづちゃんをお客さまのところまでおねがいね、あおちゃん」