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兎鞠島を揺るがす〝慰〟は、消滅した。
覡によって速やかに事後処理が行われ、島民は数日中にふだんどおりの生活にもどる。
これにて一件落着。
長いようで短かった夏が、終わってゆく。
「ここをこうして、と……」
九条家での生活も、あとわずかというころ。
鼓御前は文机に向かって、筆を動かしていた。
「なんかちょっと違くない?」
「いえ、これで合っています」
「姉さまがいいならいいけど」
葵葉は鼓御前の頭にあごを乗せ、くぁ……とあくびをもらす。
天気のいい昼下がり。最高の昼寝日和だ。
「というより、葵葉、すこし離れてください。動きづらいです!」
「えぇ、どうしようかなぁ」
葵葉はにやりと笑いながら、これみよがしに鼓御前を後ろから抱き込む。
きまぐれに屋敷へやってきたかと思えば、ずっとこの調子だ。
抱きついて離れない弟に、鼓御前はそっとため息をもらす。
「姉さまさぁ、なんで机とにらめっこなんかしてんの?」
「あのですね。わたしは遊んでいるわけではなく、とても重要なことをしているのです」
「重要なこと? ファンシーな動物のお絵描きが?」
「むむむ……」
文机の上には、短冊状の和紙が四枚ほど。
そのうちの一枚に、鼓御前が絵の具で絵を描いていた。
「かわいい猫だねー」
「虎さんですぅ!」
「ぷはっ!」
涙目になって抗議する姉に、葵葉は吹きだした。
鼓御前は虎だと言い張るが、和紙に描かれたのは子猫のようなかわいらしい動物。
縞もようがあるため、かろうじて虎と認識できる程度だ。
「ひどい……」
「ごめんごめん。意地悪してるわけじゃないんだよ? せっかく来たんだからさ、姉さまにかまってほしくて」
口では謝りながらも、葵葉は笑みを浮かべて鼓御前にすり寄る。
「ほんとうにおまえは、甘えんぼうですね」
「そりゃあ、刀だったころにくらべたらな」
前世と違って、おのれの意思で行動できる。
手をのばせば、ふれられるのだ。
「いまの俺なら、姉さまを抱きしめられる。なら、我慢する必要はないだろ?」
「もう……」
どうにも困ったもので。
鼓御前は刀だ。
刀は、ひとのふところにあるもの。
要するに鼓御前自身は、だれかに抱きしめられることを好ましく思う質なのだ。
今日も甘えたがりの弟に根負けをして、鼓御前は筆を置き、その身をあずける。
「仲良きこと、美しきかな──ってやつかしら?」
しばらく葵葉の好きにさせていると、ひょっこり虎尾がのぞき込んできた。
「母さま? どうされました?」
「おくつろぎ中、ごめんなさいねぇ。つづちゃんにお客さまがいらしたから、呼びにきたの」
「そういうわけで」と葵葉を見やった虎尾が、にっこり。
「アタシはお茶の準備をするから、つづちゃんをお客さまのところまでおねがいね、あおちゃん」



