御刀さまと花婿たち

「うーん、クタクタですねぇ……お風呂に入って、ふかふかのお布団で寝たいです……」

 ふわぁ……とあくびをもらしながら、鼓御前が歩きだす。
 そこで、事件が起きた。

 つんっ。

 母屋へと向かう石畳に、つまずいたのである。

「あら?」
「危ない!」

 よろめいた先にちょうど莇がいて、腕をのばしたのだが。

 がくんっ。

 思うように足の力が入らず、莇はひざから体勢をくずす。

「くっ……鼓御前さま!」

 莇はとっさに鼓御前の腕を引き、ぐっと抱き込む。
 そうして、ふたりはもつれ込んだのだが。

「あらあら」
「まぁ……!」

 虎尾が目を丸くし、ひなが口もとを手で覆った。
 お怪我はありませんか、と問おうとした莇は、はたと異変に気づく。
 仰向けに倒れ込んだじぶんの上に、鼓御前がいる。
 息がかかるほど、間近にいる。
 じぶんから彼女をかばって下敷きになったので、それはいい。
 問題は、なにやらふにふにとしたものが、くちびるにふれているということで。

 ……鼓御前のくちびるが、くちびるにふれている。
 それを認識した莇は、ぴしりと石像のように固まった。

「えぇ……そんな少女マンガみたいな展開ある?」

 あちゃー、と頭をかかえる葵葉。

「あっ……ご、ごめんなさい莇さん! おじゃまですよね!」

 我に返った鼓御前が、慌てて身を起こす。
 が、依然として莇は固まっており。

「……莇さん?」

 鼓御前がそうっと声をかけたところ、ようやく莇が起きあがった。

「──責任を、取らせてくださいッ!」

 それからものすごい勢いで、渾身の五体投地、いわゆる土下座をくりだす。

「えっ……えっ?」

 困惑する鼓御前。

「なんでだよ」

 素でツッコむ葵葉。

「ふざけるなよ小僧、娘はやらん!」

 耐えかねた桐弥が、叱責を飛ばす。

「申し訳ございません、おれごときがたいへん申し訳ございません、うわあああ!」

 莇が真っ赤になって身悶える。

「ぷっ…………はは!」

 そのときだった。
 千菊が、吹きだした。

「ふふっ、あははは!」

 あの千菊が、はじけんばかりの笑顔で声をひびかせている。

「このひとの笑いのツボ、どうなってんの……」
「アタシはわかる気がするわ、うふふ」

 葵葉が困惑する一方で、虎尾はにこやかに見守っている。
 保護者目線というやつだ。

「御刀さまー! おかえりなさいませー!」

 この状況下で、屋敷の奥から駆けてきた勇者がいた。
 九条家当主、竜胆である。

「きーちゃんもおかえり~! もぉパパ心配したよぉ~!」
「おいやめろ、なでるな!」

 厳格な当主のおもむきは、どこへやら。
 竜胆は一直線に桐弥へ駆け寄ると、息子の頭をなでくり回しはじめた。
 もちろん、だばだばと感動の涙を垂れ流しながら。

「みんながんばったねぇ、すごいねぇ! 今日はお赤飯にしてもらうよう頼んできたからね! ……ってあら?」

 そこで竜胆、ようやく気づく。
 土下座を決め込んだ莇と、それを泣きそうな顔で見つめている鼓御前に。
 極めつけには、千菊がこらえきれないように肩をふるわせているという。

「えっと……これ、どういう状況?」

 竜胆が目を点にしたことは、言うまでもない。