御刀さまと花婿たち

 あてがわれた九条家の一室で、千菊はひざをそろえ、じっと沈黙していた。
 日暮れ前に少年たちを見送ってから、床にもつかず、一晩中祈っていた。
 未明のこと。ぱたぱたと近づく足音があり、千菊は伏せたまぶたを持ち上げる。

「失礼いたします、立花さま!」

 萌黄色の袖をふり乱し、ひなが部屋に駆け込んでくる。
 そして息も荒く、千菊にこう告げた。

「みなさまが、お帰りになりました……!」


 ──千菊は部屋を飛びだした。
 夢中で駆け、母屋の入り口へやってくる。
 そこには、すでに人影が。

「千菊センセ!」

 葵葉がいた。
 まだ朝早く、薄暗いけれども、その声を聞けばすぐにわかった。
 目をこらした千菊は、さらに人影を認める。

「遅かったじゃない! きーちゃーん!」
「帰ってきたんだからいいだろ」

 ひとの身にもどった虎尾に、がばりと抱きつかれている桐弥。

「よく、無事で……!」
「ご心配をおかけしました、姉上」

 葵葉の肩を借り、ひなに笑い返す莇。
 ほっと安堵する千菊だけれども……ひとり、足りない。

「……つづは、どこに?」

 緊張した声音で、千菊が問う。
 すると桐弥が、無言で刀をさしだしてきた。
 白鞘におさめられた、脇差だ。
 どくり。千菊の胸が跳ねる。
 恐る恐る、千菊が手を伸ばすと。

「──あるじさま!」

 千菊の指先がふれたとたん、まばゆい光とともに鼓御前がすがたを現した。
 鼓御前は両腕をめいっぱいのばし、千菊に抱きつく。

「目を覚まされたのですね! よかった……ほんとうによかったです! あるじさまぁ……ふぇえ!」
「つづ……」

 鼓御前は、よれよれの寝間着すがただった。
 もちろん彼女だけではない。葵葉も莇も桐弥も、ぼろぼろで疲労困憊していた。
 だけれど、笑っていた。
 彼らの笑顔を目にしただけで、千菊の胸に熱が込みあげる。

「……おかえりなさい。よく、がんばりましたね」

 千菊はぎゅううと、鼓御前を抱きしめた。

「あるじさまにほめていただけて、つづはうれしゅうございます」

「えへへ」とほこらしげな声が聞こえたら、もうだめだった。
 千菊の青玉の瞳から、はらりと涙がこぼれ落ちる。
 ふたりが寄り添うさまを、だれもが見守った。

「葵葉、莇さん」

 ひとしきり鼓御前と抱擁をかわした千菊が、少年たちを呼ぶ。
 ふたりがふみだすより先に、千菊が歩み寄り。

「やり遂げてくれると、信じていました。よくできました」

 のばされた右手が、葵葉、莇の頭を順番になでる。

「うん」
「はい!」

 葵葉は、くすぐったそうに。
 莇は、ほこらしそうに。
 ふたりそろって、満面の笑みを咲かせた。