御刀さまと花婿たち

『鬼』の支配を、はねのけることができた。
 そのことを実感したのか。
 すぅ……とひとつ呼吸をして、莇がつぶやく。

「生き返った気がする……」
「姉さまのにおい嗅いでニヤけるとか、変態だな」
「なっ、そんなつもりは! 違うんです、鼓御前さま!」

 もたれかかるようにして鼓御前へ身をあずけていた莇が、ばっとからだを離した。
 葵葉は、あたふたと弁明する莇を見てにやり。
 確信犯だ。
 鼓御前も「わかっていますよ」と、くすくす笑みをもらした。

「緊張感が足りん、小僧ども。まったく……まぁ現状として、たしかに瘴気は薄れている」

「天の周辺にかぎる話ではあるがな」と桐弥に指摘され、鼓御前もあらためて気づいた。
 瘴気に満たされた神域において、先ほどより段違いに呼吸がしやすくなっているのだ。

「神気がみなぎる感じがします。これも、あらたな契りをむすんだからなのでしょう」

 ひとに信仰されるほど、神は力を増してゆく。
 鼓御前が莇を見やると、力強いうなずきが返ってきた。
 莇はひと呼吸を置き、口をひらく。

「慰んだ太刀の封印は、神宮寺家がおこなっておりました。しかし、数年前から父の病状が悪化し、封印が弱まってしまった」
「その瘴気に誘われてやってきたのが、『墓荒らしの鬼』というわけですね」
「鼓御前さまのおっしゃるとおりです。そして怨霊と祟り神。どちらの格が上かとなれば、あえて問うまでもございません」

 依然として暗い境内。鼓御前たちは気を引きしめ、瘴気の出どころをたどった。
 つまり、この場においてもっとも濃い瘴気を発する存在──
 鼓御前とよく似た容姿の少女が、すべての元凶ということ。

「どうして……? 天鼓丸はわたしです。わたしのほうが、たいせつにされてきたのに……」
「くどいぞ」

 悲壮をあらわにする天鼓丸の言葉を、桐弥は一蹴する。

「言ったろう。おまえは封印されていたのだと。たいせつに守られていたんじゃない。その邪気を外部にもらさないよう、閉じ込められていたんだ」
「お黙りなさい!」

 空気がゆれる。

「みんな嫌い……わたしを好きにならない者たちは、みんな消してください、お父さま!」

 天鼓丸は耳をふさぎ、わめいていた。

 ……シュウウ。ふたたび、濃密な瘴気が渦巻く。
 やがて、黒いもやが人型を成した。

「穢れの核は、壊したはずなんだけど」
「アレはおそらく、瘴気の残滓(ざんし)

 葵葉と莇が、瞬時に鼓御前をかばう。

「怨念の残りかすを掻きあつめて、無理やりつなぎあわせている。……鬼畜の所業だな」

 冷静に状況を見定めた桐弥が、吐き捨てる。
 天鼓丸の行為は、亡者を無理やり現世(うつしよ)へとどめるもの。
 生命の(ことわり)をねじ曲げることと同義だ。

「これじゃあ、成仏するもんも成仏できないな。さてと。ここからはおまえの仕事だ、莇」
「あぁ」

 葵葉は多くを言わなかったが、莇はその意図を汲み取っていた。

「『鬼』を滅することは、数百年の時をへて受け継がれる、わが一族の悲願」

 莇が一歩、歩みでる。

「この悲しき因果を断ち切るため、力をお貸しください、御刀さま」
「来ないで……来ないでったら!」

 天鼓丸が激しく頭をふりながら、後ずさる。
 このときすでに、莇は礼をしていた。腰が直角になるほど、深く、深く。