御刀さまと花婿たち

 ひとつ息を吐きだした鼓御前は、意を決して歩を進めた。
 近づくほど、少年の瞳が、おのれとおなじ紫の色彩を秘めていることを思い知らされる。
 悠然と葵葉を見据えていた少年だが、鼓御前を瞳にやどした瞬間だった。
 氷柱(つらら)のごとく近寄りがたい気迫をひそめ、畳に両手を伸ばす。

「御刀さまに、ごあいさつ申しあげます」

 三つ指をついた、最上級の辞儀にちがいなかった。
 さらりとした鳶色の髪が、少年の瞳をかくす。
 にわかに、鼓御前の胸がざわめいた。

「どうか、顔をお上げください」

 鼓御前はひざをつき、深々とこうべを垂れた少年の手の甲へ指先をふれあわせる。
 刹那、熱いものがこみ上げる。
 からだの奥底にやどったものが、鼓御前のこころに共鳴してやまない。

 ──嗚呼。
 やはり、()()()()()()()()()と。

「そのようにかしこまるのもおやめくださいませ。この鼓御前がおねがい申しあげます──(とと)さま」

 ……静寂。
 どれほどそうしていたろうか。
 しばらくして無の空間に衣ずれがひびき、少年が上体を起こした。

「天鼓丸」

 たったひと言。
 その名を少年が口にしただけで、鼓御前の胸中は言葉で言い表しきれない熱の奔流で満たされゆく。

「その名を知るのは、わが父だけです……お会いしとうございました、父さま……っ!」

 手をにぎったなら、もう限界だった。
 ひとりでに視界がにじみ、熱いものが鼓御前の両の目からあふれだす。