御刀さまと花婿たち

「っ……これは……!」

 天鼓丸が飛びのく。
 鼓御前の周囲には、ばりばりと、電流がほとばしっており。

「姉さまっ!」
「無事か、天!」

 裂けた空間から、ふたつの人影が飛び込んだ。

「よかった……信じて、いましたよ」

 葵葉と桐弥。
 ふたりが駆け寄るさまを目にして、鼓御前はふっと、安心感から脱力した。 

「天!」

 すぐさま桐弥が抱きとめる。

「神気の消費が激しい。原因は……」

 さっと鼓御前の容態を確認する桐弥。
 すぐに、鼓御前の黒髪をいろどる真紅の椿に気づいた。

「ふざけたことを」

 桐弥は怒りのまま、椿をにぎりつぶす。
 ぐしゃ、と音を立てた真紅の花弁が、煙のように消え去った。
 と同時に、鼓御前が身につけていた純白の振り袖もほろほろと消え、あとには寝間着が残されるだけ。
 鼓御前を蝕む瘴気は取り除いた。
 だが神気が不足した状態では、鼓御前は意識を保つことができない。

「とと、さま……」
「ちょっといいこにしていろ、天」

 桐弥は口早に言い放つなり、おのれのくちびるで、鼓御前のくちびるをふさいだ。
 ふっ……
 呼気とともに、霊力を注ぎ込む。

「んぅっ……」

 鼓御前が身をよじるが、桐弥はきつく抱いて離さない。
 まだ足りない。角度を変えて、もう一度。
 夢中だった。
 幾度となくくちづけをくり返すうちに、すっと、桐弥のくちびるを制する指先がある。

「……もうおなかがいっぱいですわ、父さま」

 困ったように笑う鼓御前。
 血色のもどった娘の笑みを目にして、桐弥は感極まる。

「天っ……無事で、よかった……っ!」
「ふぎゅっ……くるしいです、ととさま……」

 がばりと抱きすくめる桐弥によって、鼓御前が窒息しそうになったことは、言うまでもない。

「また邪魔者が現れましたよ、お父さま!」
「紫榮……おのれ……紫榮めぇッ!」
「おっと」

 ──ガキィンッ!

 吠える蘇芳がくり出した一撃は、あえなくはじかれる。
 短刀を抜き払った葵葉が、黒い太刀の軌道を逸らしたのだ。

「早速、わけわかんない状況になってんじゃねぇの」

 莇のすがたをした『鬼』。
 鼓御前と瓜ふたつ少女の存在。
 衝撃的な光景であるはずだが、葵葉も桐弥も、彼らを目にして取り乱す様子はない。

「莇の親父が言ってたとおりだったな」
「どういう、ことですか……?」
「神宮寺家当主が、洗いざらい吐いた。そこにいる天もどきの存在をな」
「──!」

 鼓御前ははっとして、天鼓丸をふり返る。

「先日神社が襲撃されたさい、結界はやぶられていなかった。それも当然のことだったんだ。おまえたちは、神社のど真ん中からふってわいて、そして消えたのだからな」

 九条家で倒れた苧環であったが、その後、一時的に意識を取りもどした。
 鬼塚家からもどった葵葉、そしてひなたちに思うところがあったのだろう。
 病床で、こう語ったという。

 ──神宮寺家が管理してきた御刀さまは、ひと振りではない、と。

 ひとつは、鼓御前と呼ばれる脇差。
 そしてもうひとつは、鼓御前とよく似た刃文(はもん)を持つ、太刀だ。

「歴代の神宮寺家当主は、太刀の封印を維持する使命があったらしい。そしてその存在を、けっして外部にもらしてはならないとも」
「っ……」
「なぜならその太刀が、いわくつきのものであるから」

 桐弥は淡々と続ける。
 紫水晶のまなざしを向けられ、天鼓丸がわずかにたじろいだ。

「いまここにいる『鼓御前』は、正真正銘、僕が打った刀だ。そして九条紫榮が打った刀は、生涯でただひと振り」

 鼓御前を腕に抱いたまま、桐弥は天鼓丸を睨みつける。

「真打ち、影打ちだなどと、そもそも存在しない。──僕の天鼓丸の()を名乗るおまえは、何者だ?」